盲人の治癒 (エル・グレコ、ドレスデン)

エル・グレコの『盲人の治癒』

『盲人の治癒』（La curación del ciego）は、ギリシャ・クレタ島出身のマニエリスム期の画家エル・グレコが描いた、新約聖書を題材とする作品です。エル・グレコは1576年にスペインに渡りましたが、本作はそれ以前の1567年から1570年頃、彼がヴェネツィアに滞在していた時期に制作されたと考えられています。この主題の作品は3点あり、本作が最も初期のもので、次にメトロポリタン美術館所蔵の作品、そして最後にパルマ国立美術館所蔵の作品がローマで描かれました。現在、本作はドレスデンのアルテ・マイスター絵画館に所蔵されています。

主題

エル・グレコのイタリア時代の作品の中で、「神殿を浄めるキリスト」と並んで特に注目されるのが「盲人の治癒」です。この主題は、イエス・キリストが盲人の目を開けるという奇跡を描いたもので、『新約聖書』の「マタイによる福音書」、「マルコによる福音書」、「ルカによる福音書」に記述されています。中世以来、写本の挿絵や彫刻作品にも登場していますが、対抗宗教改革の時代になると、この主題は新たな解釈が加えられました。盲目は不信仰を象徴し、その治癒は真の信仰の啓示とみなされ、カトリック教会が不信仰者やプロテスタントの教義によって盲目にされた人々を真の信仰に導くというメッセージが込められるようになりました。

作品の特徴

イタリアで美術を学んでいたエル・グレコにとって、戸外で多くの人物を描くことは、実験と試行錯誤の機会でした。この主題の3作品は、彼がヴェネツィア派の巨匠ティントレットやティツィアーノから学んだ成果を示しており、以前はヤコポ・バッサーノ、ヴェロネーゼ、ティントレットの作品と見なされていたこともありました。エル・グレコは、これらの作品で故郷クレタ島のビザンチン美術の様式を離れ、線遠近法を用いた空間構成を採用しました。16世紀の建築書や古代ローマの浴場跡を参考にした建築モティーフを背景に、左右に群像を配置する構図は、3つのバージョンに共通しています。

特に本作は、最も初期のヴェネツィア時代に制作されたと考えられ、その証拠として板にテンペラという技法が用いられ、画面手前の段差部分に袋や犬などヴェネツィア的なモティーフが見られます。版画から引用した人物の硬さも、ヴェネツィア時代の特徴を示しています。作品全体は均衡が取れており、左手にはキリストが盲人の目に触れるメインテーマが描かれ、右側には盲人を制止しようとする弟子たちが配置されています。これに対し、パルマ国立美術館にある作品は、背中を見せた半裸の人物像のポーズや画面の不均衡、遠近法の誇張など、マニエリスム美術の影響が色濃く見られ、消失点にディオクレティアヌス帝の浴場跡を使用していることから、ローマ時代の制作であると考えられています。

参考文献

アルバレス・ロペラ、ホセ、『エル・グレコ』、マドリード、アルランサ、2005年
ショルツヘンゼル、ミヒャエル、『エル・グレコ』、コロニア、タッシェン、2003年

外部リンク

[アルテ・マイスター絵画館]]の『盲人の治癒』のサイト (ドイツ語) [https://www.skd.museum/en/collection/online-collection/artwork-view/der-heilung-des-blinden/
[メトロポリタン美術館]]の『盲人の治癒』のサイト (英語) [https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436479
* パルマ国立美術館の『盲人の治癒』のサイト ([イタリア]]語) [https://complesso.pilotta.it/collezioni/dipinti/

この作品は、エル・グレコの初期の作風を知る上で非常に重要な作品であり、宗教的なテーマを独自の手法で表現した彼の才能が伺えます。

もう一度検索