矢田部黒麻呂

矢田部黒麻呂について

矢田部黒麻呂（やたべ の くろまろ、生没年不詳）は、奈良時代に武蔵国入間郡で暮らしていた農民です。

出自

矢田部氏は、元々仁徳天皇の皇后である八田皇女の名代として発展した氏族です。当初は「造」の姓を名乗っていましたが、後に「連」に改められました。『日本書紀』には、崇神天皇の時代に「矢田部造遠祖武諸隅」という人物がいたと記録されています。また、『先代旧事本紀』には、饒速日命の8世の孫である物部武諸隅の孫、大別連公が仁徳天皇の時代に氏造となり、矢田部連の姓を賜ったという伝承があります。

さらに、『書紀』には、推古天皇22年（614年）に矢田部造（『旧事紀』では矢田部御嬬連公）という人物が犬上御田鍬と共に隋へ派遣されたという記録も残っています。この一族は、天武天皇12年（683年）に連姓に改姓しました。

『新撰姓氏録』の記述によると、矢田部連は「伊香我色乎命」の子孫であるとされています。一方で、姓を持たない矢田部氏も東国を中心に各地に分布していたことが知られています。

人物・経歴

『続日本紀』によると、矢田部黒麻呂は父母に孝養を尽くし、生前は親に仕え、亡くなった後は悲しみに暮れて痩せ衰えるほどでした。彼は、16年もの間、斎食（喪に服している間の食事を午後は抜く）を続け、それを決して怠ることはありませんでした。その孝行が朝廷に認められ、宝亀3年（772年）11月には、天皇によって雑徭が免除され、その孝行が顕彰されました。この措置は、賦役令17の「孝子順孫条」に基づくものです。

礼記の定める斎食の期間は3年であり、喪葬令17「服紀条」では、天皇や父母、夫、本主に対する服喪期間は1年とされています。このことから、黒麻呂が長期にわたって斎食を続けたことが分かります。

参考文献

『日本書紀』(一)・（四）・（五）、岩波文庫、1994年、1995年
『日本書紀』全現代語訳（上）・（下）、講談社学術文庫、宇治谷孟：訳、1988年
『続日本紀』4　新日本古典文学大系15　岩波書店、1995年
『続日本紀』全現代語訳（下）、講談社学術文庫、宇治谷孟：訳、1995年
『日本古代氏族事典』【新装版】佐伯有清：編、雄山閣、2015年

関連項目

大倭果安
奈良許知麻呂
賦役令
* 孝子

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