矢野志加三

矢野志加三：海軍軍人から実業家へ

矢野志加三（やの しかぞう、1893年8月5日 - 1966年1月24日）は、日本の海軍軍人、そして戦後に実業家として活躍した人物です。海軍中将という軍人としての顔と、東洋パルプ（現王子製紙）専務取締役、日平産業（現コマツNTC）社長という実業家としての顔、二つの顔を持つ異色の経歴の持ち主でした。

海軍士官としてのキャリア

愛媛県松山市出身の矢野は、陸軍大尉の長男として生まれました。松山中学校から海軍兵学校へ進み、恩賜（4位）で卒業。海軍大学校も次席で卒業するなど、常に優秀な成績を収めました。

太平洋戦争開戦時は、第4艦隊参謀長として井上成美長官を補佐。その後、海軍省教育局長に転じますが、初級士官不足を理由とした兵学校の教育期間短縮には断固反対しました。この背景には、教育の質を重視する彼の信念があったと考えられます。

1944年には、新設された海軍電波本部の初代総務部長に就任。しかし、当初の人事では、矢野が中部太平洋方面艦隊参謀長、矢野英雄が電波本部長となる予定でした。結果として、矢野英雄が中部太平洋方面艦隊参謀長として出征し、サイパン島で戦死したことから、矢野は「自分が身代わりになった」と、その死を生涯悔やんだと言われています。

終戦直前の1945年、海軍総隊参謀長兼連合艦隊参謀長に就任。終戦後の同年11月には、海軍中将に進級し、「ポツダム中将」の一人として知られることになります。

実業家としての挑戦

公職追放後、矢野は実業家としての新たな道を歩み始めます。1951年、有力財界人である永野重雄の推挙により、東洋パルプの支配人に就任。その後、専務取締役に昇進し、会社の経営に携わりました。

1960年には、再建途上にあった日平産業の社長に就任。当時67歳という高齢ながら、卓越した経営手腕を発揮し、短期間で会社を立て直しました。日平産業はその後、東証2部上場を果たし、現在のコマツNTCへと発展しています。

実業家としての活躍の一方で、矢野はかつての上官であった井上成美を、部下たちと共に物心両面から支援しました。敗戦の責任を感じ、困窮生活を送っていた井上を支え続けた彼の行動は、義理堅い一面を表しています。

晩年と年譜

日平産業社長退任後、顧問に就任。翌年の1966年1月24日、72歳で生涯を閉じました。

年譜

1893年（明治26年）8月5日 - 出生
1912年（大正元年）9月9日 - 海軍兵学校入校
1915年（大正4年）12月16日 - 海軍兵学校第43期卒業（4位、恩賜）、海軍少尉候補生
1916年（大正5年）12月 - 海軍少尉に任官
1917年（大正6年）12月 - 海軍中尉に進級
1920年（大正9年）2月 - 2等駆逐艦「榧」乗組
1921年（大正10年）12月 - 海軍大尉に進級
1922年（大正11年）11月 - 海軍水雷学校高等科卒業、2等駆逐艦「栂」分隊長
1923年（大正12年）12月 - 1等駆逐艦「汐風」分隊長 兼 水雷長
1924年（大正13年）4月 - 練習艦隊参謀
1925年（大正14年）5月 - 1等駆逐艦「浦風」分隊長 兼 水雷長
1925年（大正14年）12月 - 海軍大学校甲種学生 入校
1926年（大正15年）12月 - 海軍少佐に進級
1927年（昭和2年）11月 - 海軍大学校甲種学生 卒業（第25期、次席）
1927年（昭和2年）12月 - 第18号駆逐艦長
1928年（昭和3年）12月 - 海軍軍令部部員
1930年（昭和5年）12月 - イギリス駐在（オックスフォード大学）
1931年（昭和6年）12月 - 海軍中佐に進級
1932年（昭和7年）7月 - 在イギリス日本大使館附武官補佐官
1933年（昭和8年）11月 - 軽巡洋艦「五十鈴」副長
1934年（昭和9年）11月 - 海軍省人事局局員
1936年（昭和11年）12月 - 海軍大佐に進級、海軍大学校教官
1938年（昭和13年）1月 - 支那方面艦隊司令部附 兼 臨時特務部員
1938年（昭和13年）11月 - 海軍省教育局第1課長
1940年（昭和15年）11月 - 航空母艦「飛龍」艦長
1941年（昭和16年）10月 - 第4艦隊参謀長
1942年（昭和17年）11月 - 海軍少将に進級、海軍省教育局長
1944年（昭和19年）3月 - 軍令部出仕
1944年（昭和19年）4月 - 海軍電波本部総務部長
1944年（昭和19年）12月 - 海軍艦政本部第3部長 兼 海軍航空本部第4部長
1945年（昭和20年）5月 - 海軍総隊参謀副長
1945年（昭和20年）6月 - 海軍総隊参謀長 兼 連合艦隊参謀長
1945年（昭和20年）9月 - 軍令部出仕
1945年（昭和20年）11月 - 海軍中将に進級
1945年（昭和20年）11月30日 - 海軍省官制廃止により予備役編入
1951年（昭和26年） - 東洋パルプ株式会社 支配人 就任
1953年（昭和28年）2月 - 東洋パルプ株式会社 専務取締役 就任
1957年（昭和32年）5月 - 東洋パルプ株式会社 専務取締役 退任
1960年（昭和35年） - 日平産業株式会社 社長 就任
1965年（昭和40年） - 日平産業株式会社 社長 退任、同社顧問 就任
* 1966年（昭和41年）1月24日 - 死去、享年72


矢野志加三は、激動の時代を軍人として、そして実業家として生き抜いた人物です。彼の生涯は、時代の変化に柔軟に対応し、常に新しい挑戦を続けることの大切さを教えてくれます。

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