石井生札

石井義元（生札）：鍋島直茂を支えた名将の生涯

石井義元、通称生札は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将です。肥前国の戦国大名、龍造寺氏の家臣であり、後に佐賀藩主鍋島氏の家老として、藩祖鍋島直茂の最も信頼する側近の一人として活躍しました。鍋島生三、下村生運とともに「鍋島三生」と称されています。

生い立ちと出自

石井義元は、肥前国佐嘉郡飯盛城主であった石井駿河守忠義の三男、三河守義昌の孫として生まれました。龍造寺氏の旗本部将であった石井彦十郎の次男であり、母は石井石見守忠繁の娘です。また、母は佐賀藩初代藩主鍋島勝茂の再従姉にあたります。諱は義元、生札の名は、佐賀藩祖鍋島直茂の旧名である「信生」の一字を拝領したものです。直茂の正室陽泰院（石井兵部少輔常延の次女）とは再従兄妹の関係にあり、陽泰院が初代藩主鍋島勝茂を出産した場所は、生札の屋敷でした。

鍋島直茂との関係

若い頃から鍋島直茂と親交があり、直茂が龍造寺氏に代わって国政を掌握する頃から、側近として重きをなしました。蓮池城の天守閣を名護屋城の櫓に移築する際には、鍋島主水佑茂里（石井茂里）や久納市右衛門茂俊と共に奉行を務めました。また、文禄・慶長の役では、石井六兵衛忠種と共に補給部隊を指揮し、物資運送の任務を遂行。豊臣秀吉からその労を賞されています。関ヶ原の戦いに続く柳川城の戦いでは、石井壱岐守茂利と共に船大将を務め、水軍を率いて戦いました。

武士道と晩年

石井生札の家禄は物成410石（知行1,025石）でした。佐賀藩に伝わる武士道論書『葉隠』には、生札が老年の直茂に付き従い、病床の直茂から「今晩のうちに書院を解体したい。物音を立てずに解体せよ」との命を受け、人足に柴の葉を咥えさせて物音を立てずに解体させた逸話が記されています。この逸話は、生札の機転の良さと、直茂との厚い信頼関係を物語っています。

晩年、生札は戦場で多くの敵兵を殺した罪滅ぼしを思い立ち、零落していた本通寺を再建し、自ら住職となって余生を過ごしました。日栄上人と呼ばれ、慶長7年（1602年）に亡くなりました。墓所は、佐賀県佐賀市高木瀬東の本通寺にあります。

子孫と系譜

石井生札の孫である伝右衛門正能は、島原の乱で一番槍の功名を立てた勇将です。藩の功臣である生札の孫という由緒もあって、初代藩主鍋島勝茂の近臣として重用されました。しかし、勝茂の参勤交代に随行し、江戸に滞在中、吉原遊郭に入り浸り、馴染みの遊女と恋仲になったことが原因で、勝茂に咎められ切腹を命じられました。家禄は没収され、家督は廃絶となりました。しかし、正能の嫡男次左衛門氏之の代に家督の再興を許され、孫の伝右衛門氏久は家老職にまで昇進しました。

また、子孫からは、明治維新のとき、新政府海軍の副参謀を務めた石井富之助藹吉、海軍少将武富咸一、教育者永渕アサ子、幕末の国学者石井松堂（龍右衛門）などを輩出しています。さらに、元内閣総理大臣で早稲田大学の創立者である大隈重信は、生札の曾孫が重信の高祖父大隈五太夫に嫁いだ関係で、生札の後裔の一人です。

生札家

石井義昌（三河守）―彦十郎―①義元（生札）―②伝右衛門―③正能（伝右衛門）―④氏之（次左衛門）―⑤氏久（伝右衛門）―⑥正氏（次左衛門）―⑦氏以（伝右衛門）―⑧英氏（次左衛門）―⑨英義（伝九郎）＝⑩英勝（横尾氏、伝右衛門）―藹吉（富之助）

只右衛門家

石井正能（伝右衛門）―①氏利（次男、只右衛門）―②氏章（近左衛門）―③生氏（生札）―④広氏（林太夫）＝⑤成徳（北島氏、龍右衛門、松堂）

幸左衛門家

石井義元（生札）―①鍋島茂紹（左京允）―②石井宣親（小左衛門、正室は鍋島光茂の庶子）―③政久（幸左衛門）―④政武（新六）＝⑤政恒（納富氏、孫七郎）―⑥包舊（幸左衛門）―⑦政羊（新六）―⑧判左衛門

石井生札は、その卓越した能力と人柄で、鍋島直茂の信頼を得て、佐賀藩の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。彼の生涯は、武士としての忠誠心と、人間としての深い思慮を後世に伝えるものと言えるでしょう。

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