石床幹雄

孤高の右腕、石床幹雄 ～プロ野球から料理人へ～

石床 幹雄（いしどこ みきお、1947年9月10日 - 2004年11月23日）は、香川県小豆郡福田村（現在の小豆島町）出身のプロ野球選手でした。ポジションは投手、右投げ右打ち。短い現役生活の後、第二の人生として料理人の道を選び、故郷で店を構えました。

高校時代とプロへの注目

1963年、高松商業高校に入学しましたが、同級生には3人の投手がおり、競争の激しさから数ヶ月後には土庄高校へ転校しました。転校後、2年生の秋に岡山東商業高校との練習試合で、当時すでにプロのスカウトから注目されていた平松政次氏（後に大洋で200勝を達成）と投げ合い、見事完封勝利を収めます。この一戦で、それまで無名だった石床投手に、プロ球団の視線が一気に集まることとなりました。特に威力のあるシュートがスカウトたちの間で評判となります。

翌1965年には土井池憲治氏と共にチームのエース格として、春季中国大会の県予選を勝ち進み、決勝で木田高校を破って土庄高校に初の優勝をもたらしました。しかし、県代表決定戦では、春の選抜に出場した高松商業高校の小坂敏彦氏らに抑えられ、惜しくも0対1で敗退します。同年夏も甲子園を目指し県予選を突破しますが、北四国大会の準決勝で、のちにプロで活躍するエース西本明和氏を擁する強豪・松山商業高校に敗れ、春夏を通じて甲子園出場は叶いませんでした。それでも、その実力は確かなものとして、プロ野球への扉が開かれたのです。

阪神タイガース入団と短い現役生活

1965年から始まったプロ野球ドラフト会議で、石床氏は阪神タイガースから最初のドラフト1位指名を受け、入団します。当時の背番号は「18」でした。実はドラフト指名時、石床氏はすでに社会人野球の四国電力への入社が内定していました。また、当時の阪神は、同じ高校生投手の鈴木啓示氏（のちに近鉄で317勝を達成）を1位で指名するのではないかと広く予想されていました。しかし、阪神のチーフスカウトだった佐川直行氏が、「おれのスカウト生命をかける」とまで言って周囲を説得し、石床氏の1位指名を強行したと言われています。同期には、のちに阪神の監督も務めた藤田平氏がいました。

プロ入り1年目の1966年から一軍でプレーし、同年は14試合に登板、防御率2.35という成績を残します。1968年10月10日には中日ドラゴンズ相手に初めて先発のマウンドに上がると、5回を無失点と力投を見せ、1点リードの場面でリリーフに後を託しましたが、9回に追いつかれ惜しくも初勝利はなりませんでした。翌1969年10月12日、大洋ホエールズ戦で再び先発投手を務めると、6回を4安打無失点に抑え、今度はリリーフ陣が後続を抑えきり、待望のプロ初勝利を挙げました。しかし、このシーズンのオフに、慢性腎不全という難病を患っていることが判明します。病状は進行し、翌1970年8月には肺炎を併発。プロ野球選手としてわずか5年間という短いキャリアに、自ら終止符を打つこととなりました。

第二の人生と闘病、そして別れ

プロ野球を引退後、石床氏は故郷の小豆島に戻り、療養しながら実家の旅館の仕事を手伝いました。そして1976年からは、自身の活魚料理店「石床」を開業し、料理人としての新たな道を歩み始めます。店を経営しながらも、病状は回復せず、人工透析などの治療を続けざるを得ませんでした。しかし、彼は困難な状況にあっても店を切り盛りし、地元の人々に愛される店を作り上げました。病との壮絶な闘いは続きましたが、2004年11月23日、自宅で倒れ、病院に搬送されましたが、急性心不全のため帰らぬ人となりました。享年57歳でした。

語り継がれるエピソード

石床氏には、いくつかの興味深いエピソードが残されています。近鉄バファローズで通算317勝という偉大な記録を残して引退した鈴木啓示氏が、講演のため小豆島近くを訪れた折に、石床氏の店に立ち寄ったことがありました。鈴木氏はその時、「わしは阪神に行くはずやった。しかし、おまえが来たから近鉄になったんや」と、ドラフト時の複雑な胸中を明かしたそうです。これに対し石床氏は、苦笑いを浮かべながらも「わしが決めたわけじゃない。当時、阪神のスカウトが見たらわしの方が上だったから、一位になれたんじゃないか」と応じ、「（自分はプロで1勝しかできなかったけれど）けど、おまえは近鉄の二位。わしは阪神の一位。いくら三百勝といっても、それは変わらんぞ」と、自らのプライドを覗かせたと言います。鈴木氏からゴルフに誘われた際も、意地を張って断ったという話も伝えられています。

また、石床氏の翌年にドラフト1位で阪神に入団し、エースとして活躍した江夏豊氏も、後に「もし前年に阪神が鈴木氏を指名していれば、球団は二年続けて高校生の左腕投手を獲得することはなかっただろう。そう考えると、『阪神の江夏豊』も存在しなかったかもしれない」と語っており、石床氏のドラフト指名が、その後の阪神の歴史に大きな影響を与えた可能性を示唆しています。

短い現役生活、難病との闘い、そして故郷での料理人としての成功。石床幹雄氏は、波乱に富んだ生涯を送りました。その生き様と、彼にまつわるエピソードは、今なお多くの人々の記憶に残っています。

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