石野径一郎

石野径一郎の生涯と文学

石野径一郎（1909年3月28日 - 1990年8月3日）は、沖縄県出身の作家です。本名は石野朝和で、もとは高江洲朝和と名乗っていましたが、後に石野姓に改め、筆名を径一郎としました。

生い立ちと教育

石野は、沖縄県首里区寒川町（現在の那覇市）で、首里士族の両親のもとに生まれました。幼少期に母親を亡くし、祖父の住む真和志村古島で育ちます。1921年には旧制沖縄県立第一中学（現在の沖縄県立首里高等学校）に入学し、同級生たちと文芸同人誌『はるがん（原神）』を発行するなど、若い頃から文学に親しんでいました。中学卒業後、東京の叔父のもとへ身を寄せ、東京市教員講習所を経て小学校の教員となります。教員時代には児童劇に熱中し、坪内逍遥に師事するなど、演劇への関心も深めていきました。

左傾化と文学活動

1929年、法政大学高等師範科に入学した石野は、同級生とともに左傾化していきます。教員復員問題で検挙されるという経験もしました。その後、文学部に進み、同人誌『玄鳥』を創刊するなど、本格的な文学活動を開始します。本庄陸男の紹介で打木村治の『作家群』に加わり、中塚君子と結婚。同人誌『双紙』も創刊し、作品を発表しました。

戦時中と戦後の活動

横河電機株式会社青年学校教諭、帝国教育会出版部編集員を経て、作家デビュー。この頃、比嘉春潮に郷土史を、宇野浩二、川端康成、青野季吉に小説を師事しました。東京都立京橋実業学校教諭を務めた後、学徒勤労動員に関する随筆を『東京新聞』に連載します。召集後、空襲で自宅を焼失し、石川県に疎開。終戦後、東京に戻り、新興芸術社東京編集室で『文化ウィークリー』誌の編集に携わります。1949年には、彼の代表作となる『ひめゆりの塔』を『令女界』誌に連載しました。

『ひめゆりの塔』と沖縄をテーマにした作品

『ひめゆりの塔』は、沖縄戦における女学生たちの悲劇を描いた作品で、映画化や舞台化もされ、多くの人々に感動を与えました。その他にも、対馬丸事件を描いた『沖縄の民』や『残波岬の決闘』など、沖縄の歴史や文化を題材にした作品を数多く発表しました。

その他の活動と晩年

1950年には、沖縄芸能保存会主催の舞踏劇「宮古島縁起」の原作と脚本を担当するなど、沖縄の芸能文化の保存にも貢献しました。1963年にメニエール病で倒れますが、その後も執筆活動を続け、1970年には「多良間紀行」でNHK脚色芸術祭最優秀賞を受賞しました。石野径一郎は、沖縄の歴史と文化を深く愛し、その思いを作品を通して伝え続けた作家でした。

主な作品

単行本
『南島経営』(1942)
『若い槌』(1946)
『ひめゆりの塔』(1950)
『ひめゆり部隊』(1952)
『火の花の島』(1956)
『沖縄の民』(1956)
『夜の沼』(1958)
『東京下町（上・下）』(1960)
『守礼の国』(1968)
『ひめゆりの国』(1968)
『沖縄空路の女』(1971)
『日本の島』(1971)
『沖縄の顔』(1971)
『実説ひめゆりの塔』(1973)
連載
『残波岬の決闘』(1952)
『台風圏の女』(1960)
『生きている罠』(1962)
『憂愁劇場』(1964)
『沖縄空路の女』(1964)
『琉歌つれづれ』(1970-71)
原作作品
『ひめゆりの塔』(1953,1982)
『沖縄の民』(1956)
『あゝひめゆりの塔』(1968)

石野径一郎は、その生涯を通して、沖縄の歴史と文化、そして人々の心を深く描き出した作家として、これからも多くの人々に読み継がれていくことでしょう。

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