砂坂海岸

砂坂海岸とは

砂坂海岸は、北海道檜山郡江差町に位置する、日本海に面した海岸です。海岸の背後にはクロマツを主体とする松林が広がり、「砂坂海岸林」と呼ばれています。この一帯は檜山道立自然公園に含まれており、豊かな自然が保護されています。

地理

砂坂海岸は、江差町の北約8km、乙部町の南約5km、厚沢部町の西約6kmの地点に位置しています。海岸の南側には厚沢部川が流れ込み、河口部が海岸線と接しています。松林は、海岸の背後に南北に細長く伸びる帯状で、長さ約1.5km、幅約0.5km、総面積約88haに及びます。この松原は、北海道で最も古いクロマツ林ですが、もともとこの地に自生していたものではなく、昭和初期に飛砂対策として造成されたものです。江戸時代までは広葉樹の自然林でしたが、明治初期の開拓によって伐採され、砂地と化しました。

クロマツについて

クロマツは、陽樹であり、塩害や飛砂に強く、成長が速いという特徴を持つため、海岸林として全国各地で活用されています。しかし、本来クロマツは北海道には分布しないため、道内のクロマツ林の多くは植樹されたものであり、寒さが生育の妨げとなるため、分布は道南地方に限られています。

歴史

江戸時代から明治時代にかけて

江戸時代まで、砂坂海岸はカシワ、ミズナラ、イタヤカエデなどの広葉樹に覆われた海岸林でした。当時の北海道は、内陸部を中心に原生林が広がっていましたが、明治初期からの入植と開拓により、状況は一変します。ニシン漁が盛んになると、漁獲したニシンを加工するための燃料として、沿岸部の山林が伐採されました。砂坂海岸では、ニシン漁の代わりにイワシ漁が行われ、その燃料として海岸林が伐採されました。さらに、寒冷地での暖房需要も伐採を加速させ、沿岸部の山林は荒廃しました。

柳崎集落

砂坂海岸林のうち、町有地は「柳崎海岸林」と呼ばれています。これは、明治初期までこの地に「柳崎集落」があったことに由来します。集落は1673年から1681年の間に形成されましたが、1741年の渡島大島噴火による津波で壊滅しました。その後、ヒバ材の貯木場として再建されましたが、1869年から1871年にかけて集団移転を余儀なくされました。

砂丘荒廃地の発生と飛砂

柳崎集落を苦しめた飛砂は、明治初頭頃から厚沢部川右岸側に発生した砂丘荒廃地が原因でした。過放牧によって植生が失われた荒れ地から、冬の季節風で砂が吹き上げられ、集落や田畑を埋め尽くしました。この飛砂被害が、柳崎集落の移転と人口減少の要因となりました。

昭和から現在まで

飛砂被害に悩まされていた柳崎集落でしたが、1934年に砂丘の一部が国有林に編入され、飛砂防備保安林に指定されたことで、事態は好転しました。翌年から試験的な植栽が始まり、1940年からは本格的な海岸林造成事業が開始されました。しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。植栽した苗木は飛砂で埋没したり、豪雨で水没したりし、地元住民からは冷遇されました。それでも、戦時中の食糧増産という国策もあり、植栽は続けられました。

苦難の末、クロマツ林は成長し、飛砂被害は徐々に収束に向かいました。海岸林の機能が発揮されるにつれて、農業生産は安定し、人口も回復しました。砂坂海岸林は、1960年に檜山道立自然公園に指定され、1987年には日本の白砂青松100選に選出されました。現在も、森林管理局や自治体、地域住民による保護活動が続けられています。

土壌・植生

砂坂海岸の植生は、海岸線から内陸に向かって、裸砂地、砂草地、低木叢林地、クロマツ林と変化しています。裸砂地の砂は、厚沢部川から流れ出したものが沿岸流で運ばれ、打ち上げられたものです。砂草地には、ハマニンニク、コウボウムギ、ハマヒルガオなどの耐砂性植物が生育しています。低木叢林地には、ハマナス、キンギンボクなどの自生植物と、アキグミ、イタチハギなどの植栽植物が見られます。クロマツ林は、海風の影響で梢端部が削られ、幹が風下側に曲げられているのが特徴です。林の中央部から風下側にかけては、樹高の高いクロマツが多く見られます。また、クロマツ林には、カシワ、ナラ、イタヤなどの広葉樹も生育し、混合林へと変化しつつあります。

海岸林の機能・利用

砂坂海岸林は、もともと飛砂から田畑を守るために造成されたもので、現在もその機能を発揮しています。また、塩害や風害を緩和する役割も担っています。さらに、景観の向上により、森林浴や自然観察の場として利用され、地域住民の憩いの場となっています。北海道最古のクロマツ林として、多くの見学者も訪れています。

松原の抱える問題

砂坂海岸林は、植栽密度が高く、クロマツ同士が競合して生育が悪くなる傾向にあります。また、海風や飛砂の影響で枯損しやすく、マツクイムシによる被害も深刻化しています。北海道森林管理局は、防風柵を設置するなど、保護政策を進めています。

年表

年代不明（明治初頭）: 海岸林が伐採され、荒れ地化。
1934年（昭和9年）: 砂丘が国有林に編入、飛砂防備保安林に指定。
1935年（昭和10年）: 試験的な植栽開始。
1940年（昭和15年）: 海岸林造成事業が本格化。
1960年（昭和35年）: 檜山道立自然公園に指定。
1963年（昭和38年）: 目標面積の造成完了。
1987年（昭和62年）: 日本の白砂青松100選に選出。
1673年～1681年（延宝年間）: 柳崎集落が形成。
1741年（寛保元年）: 寛保津波により集落が壊滅。
1869年～1871年（明治2年～4年）: 柳崎集落が移転。

指定

国土保全モデル林
飛砂防備保安林

アクセス

函館バス「江差高校入口」バス停から徒歩約13分。

参考資料

斎藤新一郎「砂坂海岸林」『砂防学会誌』第50巻第5号、砂防学会、1998年1月、65-71頁
真坂一彦, 三上千代蔵「北海道江差町の厚沢部川河口域における飛砂害史」『日本森林学会誌』第99巻第2号、日本森林学会、2017年、61-69頁

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