砥石崩れ

砥石崩れとは

砥石崩れ（といしくずれ）は、天文19年（1550年）9月に信濃国小県郡（現在の長野県上田市）にある砥石城（戸石城）で繰り広げられた戦いです。甲斐国の戦国大名・武田晴信（後の信玄）と、北信濃の戦国大名・村上義清との間で激しい攻防が展開されました。

戦いの背景

戦国時代の信濃国と甲斐国は、それぞれ有力な戦国大名が勢力を争っていました。甲斐国では武田信虎が国内統一を果たし、信濃国への侵攻を開始。当初は信濃の国衆である村上義清と同盟を結んでいましたが、後に武田晴信が家督を継ぐと、その外交方針は大きく転換しました。晴信は信濃侵攻を本格化させ、小笠原長時や村上義清らと対立を深めます。1550年7月には小笠原長時を破り、信濃中南部を制圧。いよいよ信濃北部、東部の平定を目指し、同年9月には村上義清の出城である砥石城攻略に乗り出します。

この戦いは、晴信にとって、1548年の上田原の戦いで義清に大敗したことへの復讐戦でもありました。砥石城は村上氏の東信濃における防衛線の要であり、戦略上も非常に重要な拠点でした。

砥石城攻防戦

砥石城は小規模な城でしたが、東西が崖に囲まれ、南西の一箇所しか攻め込む場所がないという難攻不落の城でした。武田軍は7000人もの大軍を動員しましたが、城兵はわずか500人でした。しかし、その中にはかつて武田氏に攻められ、城を奪われた志賀城の残党が含まれており、士気は非常に高かったとされています。籠城側には、楽巌寺雅方や布下仁兵衛といった国衆が名を連ねており、真田幸綱の弟である矢沢綱頼も村上方に属していました。

9月9日、武田軍は足軽大将・横田高松の部隊を先鋒に総攻撃を開始しました。しかし、城兵は崖を登ってくる武田兵に対して石を落としたり、煮えたぎる湯を浴びせかけるなど、激しい抵抗を見せました。武田軍は9月末に攻略を断念し、10月1日には撤退を開始しますが、その際に殿軍に多大な被害を被りました。この戦いで、横田高松が戦死したと伝えられています。

武田軍が砥石城に苦戦している間に、村上義清は高梨氏と和睦し、自ら2000人の本隊を率いて救援に駆けつけました。武田軍は砥石城兵と村上軍本隊に挟撃される形となり、戦況は不利になりました。晴信は撤退を決断しましたが、村上軍の追撃は激しく、武田軍は1000人近い死傷者を出し、晴信自身も影武者を身代わりにして、かろうじて脱出したと言われています。この戦いでは、横田高松をはじめ、多くの将兵が命を落としました。

砥石城の落城

砥石崩れから一年後の1551年5月26日、砥石城は武田家臣・真田幸綱によって攻略されます。真田幸綱は、かつて武田氏に仕官し、山内上杉氏との戦いで活躍した人物です。幸綱は、砥石城を攻略する際、調略を用いたと考えられています。後世の軍記物によれば、真田一族や矢沢氏が幸綱に内通していたとされています。砥石城落城後、晴信は佐久郡の城郭を整備し、内山城を支配拠点としました。

1553年1月、晴信は「戸石再興」のために出陣し、小山田虎満を砥石城に配置します。同年3月には、深志城（松本城）に集結して小笠原氏の諸城を落とし、村上方の国衆も武田方に降伏します。村上義清は同年4月6日、本拠の葛尾城を放棄して越後国の長尾景虎（後の上杉謙信）を頼り、亡命しました。義清の亡命は、武田氏と長尾氏の間で信濃北部を巡る「川中島の戦い」へと繋がっていきます。

砥石崩れの影響

砥石崩れは、武田信玄の生涯において、上田原の戦いに次ぐ二度目の敗戦として知られています。この戦いの敗北は、武田氏にとって大きな痛手であり、家臣の間では「戸石くずれ」と呼ばれていたそうです。この敗戦から、武田軍は、城攻めにおける戦略や戦術を見直す必要に迫られました。また、武田氏と村上氏の抗争は激化し、信濃を舞台にした戦乱はさらに拡大していくこととなります。

まとめ

砥石崩れは、武田信玄の生涯における数少ない敗戦の一つであり、戦国時代の合戦の厳しさを物語る出来事です。堅牢な城と城兵の奮戦、そして村上義清の救援部隊の到着により、武田軍は大敗を喫しました。この敗戦は、武田氏に大きな影響を与え、その後の戦国史の展開にもつながっていきます。

参考文献

柴辻俊六『真田昌幸』吉川弘文館、1996年
平山優『戦史ドキュメント 川中島の戦い 上』学研M文庫、2002年
平山優①『中世武士選書5 穴山武田氏』戎光祥出版、2011年
平山優②『真田三代 幸綱・昌幸・信重の史実に迫る』PHP新書、2011年
丸島和洋『中世武士選書19 郡内小山田氏 武田二十四将の系譜』戎光祥出版、2013年
丸島和洋①『真田四代と信繁』平凡社新書、2015年
丸島和洋②「真田幸綱」柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年
丸島和洋②「日向是吉」柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年
丸島和洋②「横田高松」柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年

関連項目

寡戦
武藤信堯 - この戦いにて打ち取られたとされる。

外部リンク

戸石城の戦い

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