磯邊律男

磯邊律男：税務と広告界を駆け抜けた異才

磯邊律男（いそべ りつお、1922年4月3日 - 2012年2月12日）は、日本の大蔵官僚、実業家です。そのキャリアは、国税庁長官から博報堂代表取締役社長という異色の道を辿りました。勲二等旭日重光章受章。

生い立ちと大蔵省入省

大分県東国東郡武蔵町（現：国東市）に生まれた磯邊は、教員である父の転勤に伴い、韓国の小学校、中学校を卒業。旧制五高を経て東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、1948年に大蔵省に入省しました。配属は理財局でした。

国税庁での活躍

磯邊は国税庁で査察課長を務めた際、吹原産業事件や虎ノ門事件といった大事件の調査を担当しました。特に虎ノ門事件では、調査中に田中彰治議員が病院を抜け出して査察課に乗り込み、磯邊を恫喝するという一幕もありました。また、森脇文庫による巨額脱税事件では、査察への風当たりが強まる中、検察との連携を強化。後のロッキード事件につながる強固な関係を築きました。

銀行局総務課長時代には富士銀行不正融資事件、証券担当官房審議官時代には日本熱学工業の粉飾決算事件を調査。国税庁調査査察部長時代には殖産住宅事件で東郷民安会長の脱税を摘発し、国税庁次長時代には田中金脈調査の最高責任者として辣腕を振るいました。

1975年、東京国税局長に就任した磯邊は、東京地検特捜部と連携し、田中角栄、児玉誉士夫の脱税摘発を指揮。ロッキード事件の突破口を開く上で重要な役割を果たしました。児玉邸の家宅捜索前日には、300人の査察官を前に「税務の威信を賭けて徹底調査をやれ」と訓示しました。

博報堂社長へ

1983年、磯邊は大蔵省時代の直属の上司であった近藤道生に招かれ、博報堂特別顧問に就任。同年12月には代表取締役社長に就任しました。社長時代には「生活者発想」を掲げ、マーケティング・エンジニア宣言を推進。イベント、映画、博覧会など広告周辺領域の強化に取り組みました。

闇社会との関わり

磯邊は国税庁長官時代、暴力団への税務調査を指示しており、その際、担当者の自宅に犬や猫の死体が投げ込まれるなどの事件も発生しました。後に暴力団幹部から挨拶を受けた際、過去の税務調査を巡り「その節は、面倒をおかけしました」と述べられたというエピソードも残っています。

法務・検察との親交

磯邊は法務・検察の重鎮との交流も深く、「法務・大蔵会」と呼ばれる会合を定期的に開催。法務検察の現役幹部と、大蔵や国税査察経験者との親睦を深めました。これは、国税庁時代に培った検察との協力関係を物語っています。

その後

2012年2月12日、磯邊律男は腎盂がんのため89歳で死去。趣味は小旅行でした。

略歴

1948年4月1日 - 大蔵省に入省。
1952年 - 東京・芝税務署長。
1959年 - 福岡国税局直税部長。
1964年 - 国税庁査察課長。
1970年 - 大蔵省銀行局総務課長。
1972年 - 国税庁調査査察部長。
1973年4月1日 - 大蔵省大臣官房審議官。
1974年4月1日 - 国税庁次長。
1975年7月 - 東京国税局局長。
1977年4月1日 - 国税庁長官。
1980年6月1日 - 国税庁長官を退官し、日本損害保険協会副会長。
1983年12月1日 - 博報堂代表取締役社長。
1994年2月1日 - 同代表取締役会長。
2000年2月1日 - 同代表取締役相談役。
2012年2月12日 - 死去。

著書

『税務行政と税理士の役割』TKC広報部、1981年。
『研修国税通則法』新都心文化センター、1984年。
『研修相続税法』新都心文化センター、1984年。
『研修法人税法』新都心文化センター、1987年。

主な公職

中央酒類審議会長
アジア刑政財団理事
財団法人五井平和財団理事
財団法人上原記念生命科学財団監事
財団法人矯正協会評議員
財団法人国際民商事センター理事
社団法人財政金融調査会理事
財団法人さわやか福祉財団理事
更生保護法人全国更生保護法人連盟理事
財団法人日本文化藝術財団評議員
財団法人博報児童教育振興会常務理事
財団法人古岡奨学会理事
経営塾フォーラム監事
日本戦略研究フォーラム評議員
株式会社平和監査役

映画作品（博報堂が製作に関与したもの）

1985年7月20日 - 「ビルマの竪琴」
1986年3月15日 - 「アリオン」
1988年4月16日 - 「となりのトトロ」
1991年7月20日 - 「おもひでぽろぽろ」
1992年4月11日 - 「豪姫」
1992年7月18日 - 「紅の豚」
* 1994年7月16日 - 「総天然色漫画映画 平成狸合戦ぽんぽこ」

磯邊律男は、税務と広告という異なる分野で卓越した手腕を発揮した人物でした。そのキャリアは、官僚としての経験を活かし、企業経営を成功させることの可能性を示しています。

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