磯部四郎:日本の近代法学を築いた先駆者
磯部四郎(いそべ しろう、
1851年6月25日 -
1923年9月1日)は、明治時代に活躍した
法学者、
検事、
判事、
弁護士、そして
政治家です。
富山藩士の家に生まれ、激動の時代の中、日本の法制度の近代化に大きく貢献しました。
生涯
磯部は
嘉永4年(
1851年)に、
富山藩の若年寄である林太仲の四男として生まれました。幼少期に足軽の上野家の養子となり、後に磯部姓を名乗ります。上京後、昌平学校で学びますがすぐに退校し、漢学や仏学を修めます。その後、大学南校(現在の
東京大学)に入学し、法学の道を志しました。
明治5年(
1872年)には、
木下広次、
井上正一、
岸本辰雄、
熊野敏三らと共に司法省
明法寮の法学生徒となり、本格的に法学を学び始めます。明治8年(
1875年)には、司法省の官費留学生としてフランスへ留学。
パリ大学法学部で学び、明治11年(
1878年)に法学士号を取得しました。これは、日本人としては2番目の快挙でした。
帰国後、磯部は司法省に奉職し、
検事や
判事を歴任します。また、民法編纂委員として、ボアソナードと共に旧民法の起草に携わりました。その後、
衆議院議員や貴族院議員としても活躍し、日本の政治にも深く関わりました。
磯部四郎は、日本の近代法学の基礎を築いた人物として高く評価されています。フランス留学で得た知識を基に、日本の法制度の近代化に尽力しました。特に、民法編纂においては、ボアソナードと共に旧民法の起草に携わり、日本の法体系の確立に大きく貢献しました。
また、磯部は法学教育にも熱心であり、司法省法学校で教鞭を執り、後進の育成に努めました。その教え子の中には、後に日本の
法曹界を担う多くの人材が育ちました。
磯部四郎は、
政治家としても活躍しました。
衆議院議員や貴族院議員として、国政に参画し、法律の制定や改正に尽力しました。特に、大逆事件(
幸徳秋水事件)では、弁護人として被告人たちの弁護にあたり、人権擁護のために尽力しました。
人物像
磯部四郎は、正義感が強く、意志の固い人物として知られています。また、
花札を好むなど、親しみやすい一面も持ち合わせていました。しかし、その
花札が原因で、
司法官弄花事件を引き起こし、一時的に官職を離れることにもなりました。
関東大震災の際、避難先で焼死するという悲劇的な最期を遂げましたが、彼の残した功績は、日本の法学史に燦然と輝いています。
著作
磯部四郎は、多くの著作を残しています。主なものとして、『大日本帝国憲法註釈』、『日本刑法講義筆記』、『刑事訴訟法講義』、『民法釈義』、『刑法講義』、『商法釈義』、『改正刑法正解』などがあります。これらの著作は、当時の法学研究に大きな影響を与えました。
参考文献
村上一博(編)『日本近代法学の巨擘・磯部四郎論文選集』(信山社、2005年)
平井一雄・村上一博(編)『磯部四郎研究―日本近代法学の巨擘』(信山社、2007年)
* 谷口貴都「磯部四郎とその法律学 (一) : 近代法学黎明期を歩んだ人々」『高岡法科大学紀要』第14巻、高岡法科大学、2003年、93-146頁
磯部四郎は、日本の近代法学の黎明期に、その発展に大きく貢献した人物です。彼の功績は、現代の日本の法制度にも深く根付いています。