祖逖

祖逖（そ てき）

祖逖（266年 - 321年）は、西晋から東晋にかけての武将で、字は士稚（しち）といいます。東晋初期の名将として知られ、五胡十六国時代の動乱期に、中原回復を目指して北伐を指揮しました。

生涯

范陽郡遒県（現在の河北省保定市）の出身。代々将軍を輩出する家柄でしたが、父を早くに亡くし、兄に育てられました。若い頃は向こう見ずなところがありましたが、義を重んじ、身分に関わらず誰とでも分け隔てなく接したため、民衆から慕われていました。

西晋が八王の乱や永嘉の乱で混乱すると、祖逖は友人たちと共に淮泗（わいし）地方へ避難しました。その際、老人をいたわり、物資を平等に分け与えるなど、リーダーシップを発揮し、周囲から頼りにされました。この評判を聞いた司馬睿（しばえい）（後の元帝）に召し出され、軍諮祭酒（ぐんしさいしゅ）に任命されました。

西晋滅亡後、司馬睿が元帝として即位し東晋を建国すると、祖逖は中原回復を訴え、元帝に北伐の許可を求めました。元帝は北伐に消極的でしたが、祖逖の熱意に押され、奮威将軍・豫州刺史（よしゅうしし）に任命。しかし、武器や兵は充分に与えられず、祖逖は自ら義勇兵を集めることになりました。

祖逖は2000人の義勇兵を集め、北伐を開始する際、「中原を平定できぬうちは、再びこの長江を渡りはせぬぞ」と誓い、兵士たちを鼓舞しました。

祖逖は後趙（こうちょう）の石勒（せきろく）と戦い、幾度も打ち破りました。その戦略と武勇は、兵力の差をものともしませんでした。319年には石虎（せきこ）に敗れるものの、黄河以南の地をほぼ制圧する事に成功しました。

祖逖は、身分に関係なく誰にでも気さくに接し、私財を惜しみなく分け与えたため、部下や民衆から深く慕われました。敵対していた武将の中にも、その人柄に惹かれて味方する者がいたほどです。

320年、雍丘（ようきゅう）に進軍し、河南（かなん）の多くの郡県を東晋に帰属させました。その功績により鎮西将軍（ちんせいしょうぐん）に任命されました。当時、華北では前趙（ぜんちょう）と後趙が対立しており、祖逖はその隙を突いて河北（かほく）への進出を企図しましたが、東晋朝廷内部の権力抗争に巻き込まれ、劉隗（りゅうかい）・戴淵（たいえん）に軍権を奪われてしまいました。

祖逖は東晋の将来を憂い、病に倒れ、321年に雍丘で亡くなりました。享年56歳。元帝はその功績を称え、車騎将軍（しゃきしょうぐん）の位を追贈しました。

人物

武勇

石勒は祖逖との戦いを恐れ、祖逖の祖父の墓を修理し、墓守を置きました。また、祖逖の部下が罪を犯して逃れてきた際には、匿わずに首を斬って送り返すなど、祖逖に配慮しました。

王敦（おうとん）は、祖逖の死を喜び、その野心を露わにしたと言われています。

祖逖の死後、豫州の民は涙を流し、彼を祀る祠を建てました。

劉琨（りゅうこん）との関係

劉琨は祖逖とは若い頃からの親友で、国のために尽くすことを誓い合いました。ある夜、2人が同室で寝ていると、鳩の鳴き声で目が覚めた祖逖は、劉琨を起こして「これは乱世の兆しだ。我々の腕の見せ所ではないか」と語ったと言われています。

劉琨は常に祖逖のことを気にかけ、「私はいつも祖君が私より先に鞭（先鞭）をつけはしないかと心配しているのだ」と語っていました。

もう一度検索