前趙

前趙（ぜんちょう）

前趙は、五胡十六国時代に存在した国で、304年から329年まで続きました。初代皇帝は劉淵で、当初の国号は「漢」でしたが、後に劉曜の時代に「趙」と改められました。そのため、「漢趙」または「劉趙」とも呼ばれます。また、匈奴によって建国された国家であることから、劉曜が国号を改める前を「匈奴漢」と呼ぶ研究者もいます。

同時期に石勒が「趙」を国号とする国を建てたため、劉淵の趙を「前趙」、石勒の趙を「後趙」と区別しています。

歴史

建国期

三国時代の魏は、匈奴や鮮卑などの周辺民族を傭兵として雇い入れていました。後漢末期に服属した南匈奴の単于の末裔である劉淵は、西晋から匈奴の五部大都督に任じられていました。

西晋では290年4月に司馬炎（武帝）が崩御すると、皇族による内紛、いわゆる八王の乱が起こります。劉淵は匈奴の兵力を利用しようとした成都王司馬穎により鄴に留められ、寧朔将軍・輔国将軍・冠軍将軍に任命されました。しかし、八王の乱が激化すると、匈奴内部では自立を図る声が大きくなり、劉淵の従祖父である劉宣は劉淵を大単于に推戴しました。司馬穎は鮮卑や烏桓を動かして対立していた東海王司馬越・東嬴公司馬騰兄弟や安北将軍王浚に対抗するため、304年8月に劉淵を山西に戻しましたが、間もなく劉淵は離石で大単于を称して自立しました。司馬穎が司馬越らに敗れて洛陽に逃れると、10月には漢王を自称し、独自の元号を建てて事実上独立し、「漢（前趙）」を建国しました。国号を漢としたのは、劉淵の祖と漢室の婚姻関係、三国時代の蜀の最後の皇帝劉禅に孝懐皇帝と追尊して、さらに前漢の高祖劉邦らの神主を祭って自ら前漢・後漢・蜀漢の後継者と称したためです。

劉淵から劉聡へ

劉淵は子の劉聡・親族の劉曜を従えて司馬騰を破り、河東地域を占領しました。この勢力拡大の過程で、羯族の石勒や漢民族の名族の王弥・劉霊などを従え、并州を攻略するだけでなく有能な人材も手に入れています。308年10月には蒲子において劉淵は皇帝に即位し、309年1月には平陽に遷都しました。劉淵は西晋を滅ぼすべく洛陽に何度も攻め入りました。ですが306年12月に西晋も東海王司馬越の下で懐帝が擁立されて八王の乱は平定されており、漢軍は劉聡を中心にして西晋を攻撃しましたが、その都度司馬越に敗れて勢力拡大を阻まれていました。

310年6月に劉淵が病死し、長男の劉和が継ぎました。しかし、暴君の劉和には人望が無く兄弟を排除して地位の安定を図ったため、7月に弟の楚王劉聡が謀反を起こし、劉和は母方の叔父の呼延攸と共に劉聡と内通した部下によって殺害されました。

華北の覇者

劉聡は西晋を滅ぼすべく、現在の河北省・山東省方面の経略に力を注ぎました。311年になると西晋内部では懐帝と司馬越が対立し、遂に懐帝は司馬越討伐の勅命を発するに至り、司馬越は逃亡先で間もなく憂憤の内に病死。この混乱の隙を突いて配下の石勒は司馬越軍10万余を殺害し、西晋の抵抗力と統治力を完全に破壊しました。そして6月、劉聡は劉曜・王弥・石勒に命じて洛陽を陥落させて宮殿や宗廟を焼き払い、3万人以上を殺し、懐帝を捕らえて平陽に連行し、西晋を実質的に滅ぼしました（永嘉の乱）。この直後に劉聡は王弥と対立しましたが、王弥は石勒に殺害されました。

西晋の残党は懐帝の甥の愍帝を擁立してなおも漢に抵抗していましたが、劉聡は劉曜に命じて長安を攻撃させ、316年11月に長安は陥落して愍帝は平陽に拉致され、317年12月に劉聡は処刑して西晋を完全に滅ぼしました。こうして漢は華北の主要地域を支配下に置く覇者となりました。なお、これ以降は五胡十六国時代と呼ばれ、生き残った晋の皇族は東晋を建てました。

異常事態

華北の覇者となった劉聡でしたが、華北全土を統一していたわけではありませんでした。河北にはまだ劉琨や王浚ら西晋の残党や前涼が割拠していたからです。これらの内、劉琨や王浚は石勒により平定され、今度は石勒の権力が漢内部で強大化するようになりました。また、劉聡は華北の覇者になった頃から酒と女に溺れ出し、かつての英明さを失いだしました。その一例が皇后鼎立一件に現れました。劉聡は皇后の呼延氏が死去すると、複数の皇后を取り立てて後宮を拡大するなどしたため、外戚や宦官の政治介入を招いて乱脈政治を横行させ、同時期に起こった平陽方面の飢饉も漢の衰退を助長しました。

318年7月に劉聡が死去すると、子の劉粲が跡を継ぎますが、8月に外戚の靳準が反乱を起こして劉粲を殺害し、さらに平陽にいた劉氏一族をも殺害した上で、靳準は漢天王を自称して東晋に投降を申し入れた事により、漢はいったん滅亡しました。

劉曜の再興と挫折

318年10月、漢の相国・都督中外諸軍事として長安に駐屯していた劉曜は、蒲坂で皇帝に即位し、漢を再興しました。12月には石勒と協力して平陽の靳準を滅ぼし、長安に遷都して国号を趙と変更しました。この際、石勒は趙公に封ぜられましたが、319年11月に自立し襄国で大単于・趙王を称して後趙を建国しました。このため、華北は西に劉曜の前趙、東に石勒の後趙が二分して争う事態となりました。

劉曜は北や西に割拠する前涼や前仇池に対して勢力を拡大して後趙に対抗しましたが、後趙は石勒の下で急速に国力を増強し、次第に押されるようになります。328年7月、劉曜は後趙の攻撃を撃退し、洛陽を奪回するために親征しました。これに対して後趙も石勒自らが迎撃し、双方10万を超える大軍で激戦を繰り広げましたが、劉曜は敗れて石勒の従子の石虎に捕らえられ、処刑されました。

滅亡

劉曜の死後、皇太子の劉煕が跡を継ぎました。しかし後趙に攻められて長安を放棄して西に逃亡します。329年9月、上邽において石虎に殺され、前趙は完全に滅亡しました。

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