神秀

神秀（じんしゅう）

神秀（606年 - 706年）は、中国禅宗における北宗の開祖として知られる僧侶です。諡号は大通禅師。俗姓は李氏で、河南省開封市尉氏県出身です。彼の生涯は、禅宗の歴史において重要な転換期と重なり、その教えは後世に大きな影響を与えました。

生涯

神秀は13歳で出家し、20歳で具足戒を受けました。その後、50歳で禅宗五祖である弘忍の弟子となり、その門下で最も優れた弟子として知られるようになります。しかし、661年頃、師の元を離れ、一時還俗したとも伝えられています。その後10年ほどの行動は不明ですが、676年頃に荊州の玉泉寺に住し、後に度門蘭若を建立して移りました。

700年、94歳になった神秀は、時の皇帝である武則天に招かれ、翌年に上京を果たします。彼は長安と洛陽の「両京の法主」となり、また、武則天、中宗、睿宗の「三帝の国師」として尊崇されました。彼の住む度門蘭若は度門寺に昇格し、彼の名声は頂点に達します。しかし、706年、101歳で洛陽の天宮寺にて入滅。中宗の詔により、龍門山に葬られ、大通禅師の諡号が贈られました。

思想

神秀の禅法は「漸悟」を説くものでした。これは、段階的に悟りに至るという考え方で、弟弟子である慧能の「頓悟」思想とは対照的です。この対立は、禅宗の歴史において大きな論争点となりました。

神秀の教えは、「身は菩提樹の如く、心は明鏡台の如し。時時に勤めて払拭せよ、塵埃を惹かしむること勿れ」という偈に象徴されます。これは、心を常に磨き、煩悩の汚れを取り除くことで悟りに近づくという教えです。一方、慧能は「菩提本樹に非ず、明鏡亦台に非ず。本来清浄、何の処にか塵埃を惹かん」と説き、本来の自己の清浄さを強調しました。

神秀は当初、禅宗の六祖とされていましたが、後に慧能の弟子である荷沢神会による北宗批判により、神秀の門流は「北宗」、慧能の門流は「南宗」と区別されるようになりました。そして、南宗の慧能が六祖として広く認められるようになります。しかし、神秀の教えが禅宗の歴史において重要な役割を果たしたことに変わりはありません。

北宗の伝播

神秀の没後、その教えは弟子の普寂によって受け継がれました。また、北宗の禅は奈良時代・平安初期に日本に伝わり、日本天台宗の開祖である最澄も、師の行表から北宗禅の思想を受け継ぎました。このように、神秀の教えは、日本仏教にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

伝記資料

神秀に関する主な伝記資料としては、『宋高僧伝』巻8の「唐荊州当陽山度門寺神秀伝」、『景徳伝灯録』巻4の「北宗神秀禅師」、『伝法宝紀』、『楞伽師資記』などが挙げられます。これらの文献は、神秀の生涯や思想を理解する上で重要な手がかりとなります。

まとめ

神秀は、中国禅宗北宗の開祖として、その教えと生涯は禅宗の歴史において重要な位置を占めています。彼の漸悟の教えは、禅宗の発展に大きな影響を与え、また、日本仏教にもその足跡を残しました。彼の生涯と教えを学ぶことは、禅宗の歴史を深く理解するための重要な一歩となるでしょう。

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