神領古墳群

神領古墳群：大隅半島の古墳文化を物語る

神領古墳群は、鹿児島県曽於郡大崎町に位置する、古墳時代中期（5世紀代）に築造された古墳群です。大隅半島の東岸部、志布志湾に面した肝属平野の北部に位置し、田原川と持留川に挟まれたシラス台地上に広がっています。この古墳群は、南端地域における古墳文化の広がりを示す重要な遺跡であり、周辺の唐仁古墳群や塚崎古墳群、横瀬古墳などと共に、当時の社会構造や文化交流を考える上で欠かせない存在です。

古墳群の概要

神領古墳群は、標高20〜25メートルの台地上に、前方後円墳4基、円墳9基、そして8基以上の地下式横穴墓で構成されています。古墳群の範囲は南北約500メートル、東西約400メートルに及び、かつてこの地には旧大崎城が築かれていました。前方後円墳のうち、6号墳（天子ヶ丘古墳）は発掘調査後に消滅し、13号墳は前方部が失われています。11号墳は道路建設の際に一部が削られましたが、10号墳はほぼ完全な形で残存しており、発掘調査によって多くの発見がありました。

発掘調査の歴史

神領古墳群の調査は、1959年に1号地下式横穴墓（竜相地下式横穴墓）が発見されたことから始まりました。この調査では、鉄剣や鉄刀、内行花紋鏡が出土しました。1962年には、6号墳から銅鏡（日光鏡と変形獣帯鏡）が発見され、1968年には大崎町教育委員会による発掘調査が行われました。この調査で6号墳は全長50メートル、高さ3メートルの前方後円墳であり、主体部が組合式石棺であることが確認されました。その後も、1980年から1993年にかけて、大崎町教育委員会や鹿児島県教育委員会によって、複数の地下式横穴墓が調査されています。

10号墳の発掘調査

特に詳細な調査が行われたのは10号墳です。鹿児島大学総合研究博物館の調査隊によって、2006年から2008年にかけて3次にわたる発掘調査が行われました。この調査で、10号墳は全長54メートルの前方後円墳で、古墳群内で最大規模であることが判明しました。出土遺物から、5世紀前半代に築造されたと推定されています。また、墳丘の周溝内からは、この古墳と共存する地下式横穴墓が3基新たに発見されました。

後円部の墳頂からは、刳抜式舟形石棺が発見されました。この石棺は、志布志一帯で産出される入戸火砕流の溶結凝灰岩で作られており、九州中部地域から招聘された石工によって製作されたと考えられています。さらに、墳丘西側のくびれ部付近からは、土師器や須恵器を用いた祭祀跡が見つかりました。この祭祀に使われた須恵器は、愛媛県伊予市の「市場南組窯」で焼かれた広域流通品でした。

出土した埴輪

墳丘のくびれ部付近からは、多量の埴輪片が出土しました。その中には、眉庇付冑を装着し、写実的に表現された顔を持つ人物埴輪が含まれていました。当初は武人埴輪と考えられていましたが、後の調査で盾を持つ姿を表した「盾持人」埴輪であることが判明しました。

大隅半島における古墳文化

10号墳の調査結果から、被葬者が広範囲な地域との交流を通じて、技術や情報を掌握していた強力な首長であったことが示唆されています。伊予地域産の須恵器や、九州中部地域の石棺技術の導入など、当時の地域間の交流が具体的に示されています。

これまで、鹿児島県下の古墳時代は、他地域から孤立した文化圏と見なされがちでしたが、神領古墳群の調査によって、畿内や瀬戸内、さらに南島などとの積極的な交流があったことが明らかになりました。この成果は、九州南部の古墳文化に対する従来の歴史観を再考させるものとなっています。

神領古墳群は、大隅半島における古代文化を理解する上で、極めて重要な遺跡であり、今後の研究によって、さらに多くの事実が明らかになることが期待されます。

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