福島雄次郎
福島雄次郎（ふくしま ゆうじろう）は、1932年3月21日に熊本県八代市で生まれ、2005年1月21日に亡くなった日本の作曲家です。
終戦後、彼は結核に罹患し、23歳に至るまで療養生活を送りました。この期間、自宅で東京音楽学校（現在の東京藝術大学）の通信教育を受け、作曲の学習を開始します。健康を取り戻し上京するまでの間、福島は生活のために様々な仕事に就きました。保険のセールスマン、ミシンの販売員、そして五木村の山中での飯場労働など、多岐にわたる職を経験しました。
その後、東洋音楽短期大学（現在の東京音楽大学）に進み、作曲を箕作秋吉、指揮法をアルベルト・レオーネに師事しました。卒業後、作曲家として活動を開始し、早くからその才能を認められます。1962年には「ヴァイオリンとオーケストラのためのラプソディー」で第2回TBS賞を受賞。翌1963年には、「オーケストラのための＜三連画＞」が第32回日本音楽コンクールで第3位に入賞しました。さらに、1991年には第24回MBC（南日本放送）賞を受賞しています。
作曲家としての活動に加え、作曲グループ新萌会や日本現代音楽協会、九州作曲家協会など、様々な音楽団体に所属し、多くの作品を発表しました。特に、奄美群島の豊かな民謡を主題とした合唱作品は、彼の創作活動の中でも重要な位置を占めています。これらの作品、中でも代表作「南島歌遊び」は、全国の合唱団体によって頻繁に取り上げられるレパートリーとなり、合唱コンクールの自由曲としても広く演奏されています。彼は後進の指導にも熱心に取り組み、九州作曲家協会の副会長を務めたほか、鹿児島短期大学音楽科（現在の鹿児島国際大学国際文化学部音楽学科）で名誉教授となりました。また、全日本合唱コンクールや南日本音楽コンクールなどの主要な音楽コンクールで審査員を歴任しました。彼の門下からは、喜納政一郎、鈴木聡、新倉健、千原卓也といった作曲家や音楽家が育っています。
福島の音楽は、「音楽は民衆の中から生まれ、その根源は民謡やわらべうたにある」という明確な信念に支えられています。今日では、日本の固有の音素材、特に民謡を取り入れた作曲家として高く評価されていますが、彼の創作の方向性は、キャリアの中で大きな転換を経て形成されました。
鹿児島に拠点を移した1977年以降に民謡を基盤とした作品が多く生まれますが、それ以前の東京時代には、十二音技法などの新しい作曲手法を探求していました。例えば、1970年から71年にかけて作曲された「きけわだつみのこえ」について、彼自身が「私が『南島』で追求しているような、日本的なイメージはまったくありません」と述べている通りです。
しかし、新しい手法での創作は、彼にとって常に違和感を伴うものでした。当時のヨーロッパ中心の音楽潮流の中で作曲を試みるほど、「どうしても自分のものと違う」「自分のものではない」という感覚に苦しみました。「いったい自分って何なのだろう」という深刻な悩みに直面しながらも、「日本人であることから逃れられないのではないか」という思いを強く抱いていました。1960年、所属する新萌会の発表会で発表したオーケストラ作品が厳しい評価を受けた一方、同年の別の発表会で発表した歌曲が好評を博したことが、彼の音楽観を決定的に変えるきっかけとなりました。
「自分自身を真に表現するためには、日本の音から離れることはできないのではないか」と考えた彼は、自身の音楽の原点を日本語に見出しました。さらに掘り下げていくと、それは故郷の「いなか」で話し、耳にしてきた方言、そしてそのイントネーションにあるのではないか、そこから新しい音楽が生まれるのではないか、という確信に至ります。彼はバルトークやコダーイといった、民俗音楽を自身の創作に取り入れた作曲家から影響を受け、「いつの時代も、その時代の音楽は農民の音楽から作り上げられている。だから自分も農民や漁民の音楽から、現代に呼応する音楽を創造しなければならない」と考えるようになりました。
多くの民謡を採譜し、それを元に歌曲の創作を始めましたが、東京時代には、どれほど多くの民謡に触れ、繰り返し聴いても、どこか心から深く共鳴し、入り込むことができない感覚が拭えませんでした。転機が訪れたのは、鹿児島に赴任し、鹿児島県の高等学校音楽研究会で講師を務めたことでした。この縁で、合唱指揮者の住吉三滋と出会います。日本の音楽教育について語り合う中で意気投合した二人は、共に南島の民謡採取に赴くようになります。合唱界の事情に明るかった住吉は、福島の歌曲作品を合唱用に編曲することを強く勧めました。それまで合唱作品にはあまり馴染みがなかった福島でしたが、この出会いを機に合唱曲の作曲へと創作の軸足を移すこととなります。一方、住吉は福島の作品、特に「南島歌遊び」などを積極的に演奏し、昭和後期における合唱コンクールで目覚ましい成果を上げ、福島作品の普及に大きく貢献しました。
彼の代表的な作品には、以下のようなものが挙げられます。
混声合唱組曲『きけわだつみのこえ』
女声合唱とピアノのための『美しき南の島の歌』
無伴奏女声合唱のための『南島歌遊び』
無伴奏女声合唱のための『道之島唄』
女声(童声)合唱組曲『ニライカナイの彼方から』
混声合唱組曲『球磨川』
* 管弦楽のための『ヤポネシア組曲』
福島雄次郎は、自身のルーツである日本の風土と人々の声に深く根差した音楽を追求し、特に合唱の分野において、その独創的な世界を確立しました。彼の作品は、日本の合唱界に新たな息吹をもたらし、今なお多くの人々に歌い継がれています。
人物と背景
終戦後、彼は結核に罹患し、23歳に至るまで療養生活を送りました。この期間、自宅で東京音楽学校（現在の東京藝術大学）の通信教育を受け、作曲の学習を開始します。健康を取り戻し上京するまでの間、福島は生活のために様々な仕事に就きました。保険のセールスマン、ミシンの販売員、そして五木村の山中での飯場労働など、多岐にわたる職を経験しました。
その後、東洋音楽短期大学（現在の東京音楽大学）に進み、作曲を箕作秋吉、指揮法をアルベルト・レオーネに師事しました。卒業後、作曲家として活動を開始し、早くからその才能を認められます。1962年には「ヴァイオリンとオーケストラのためのラプソディー」で第2回TBS賞を受賞。翌1963年には、「オーケストラのための＜三連画＞」が第32回日本音楽コンクールで第3位に入賞しました。さらに、1991年には第24回MBC（南日本放送）賞を受賞しています。
作曲家としての活動に加え、作曲グループ新萌会や日本現代音楽協会、九州作曲家協会など、様々な音楽団体に所属し、多くの作品を発表しました。特に、奄美群島の豊かな民謡を主題とした合唱作品は、彼の創作活動の中でも重要な位置を占めています。これらの作品、中でも代表作「南島歌遊び」は、全国の合唱団体によって頻繁に取り上げられるレパートリーとなり、合唱コンクールの自由曲としても広く演奏されています。彼は後進の指導にも熱心に取り組み、九州作曲家協会の副会長を務めたほか、鹿児島短期大学音楽科（現在の鹿児島国際大学国際文化学部音楽学科）で名誉教授となりました。また、全日本合唱コンクールや南日本音楽コンクールなどの主要な音楽コンクールで審査員を歴任しました。彼の門下からは、喜納政一郎、鈴木聡、新倉健、千原卓也といった作曲家や音楽家が育っています。
音楽性の変遷
福島の音楽は、「音楽は民衆の中から生まれ、その根源は民謡やわらべうたにある」という明確な信念に支えられています。今日では、日本の固有の音素材、特に民謡を取り入れた作曲家として高く評価されていますが、彼の創作の方向性は、キャリアの中で大きな転換を経て形成されました。
鹿児島に拠点を移した1977年以降に民謡を基盤とした作品が多く生まれますが、それ以前の東京時代には、十二音技法などの新しい作曲手法を探求していました。例えば、1970年から71年にかけて作曲された「きけわだつみのこえ」について、彼自身が「私が『南島』で追求しているような、日本的なイメージはまったくありません」と述べている通りです。
しかし、新しい手法での創作は、彼にとって常に違和感を伴うものでした。当時のヨーロッパ中心の音楽潮流の中で作曲を試みるほど、「どうしても自分のものと違う」「自分のものではない」という感覚に苦しみました。「いったい自分って何なのだろう」という深刻な悩みに直面しながらも、「日本人であることから逃れられないのではないか」という思いを強く抱いていました。1960年、所属する新萌会の発表会で発表したオーケストラ作品が厳しい評価を受けた一方、同年の別の発表会で発表した歌曲が好評を博したことが、彼の音楽観を決定的に変えるきっかけとなりました。
「自分自身を真に表現するためには、日本の音から離れることはできないのではないか」と考えた彼は、自身の音楽の原点を日本語に見出しました。さらに掘り下げていくと、それは故郷の「いなか」で話し、耳にしてきた方言、そしてそのイントネーションにあるのではないか、そこから新しい音楽が生まれるのではないか、という確信に至ります。彼はバルトークやコダーイといった、民俗音楽を自身の創作に取り入れた作曲家から影響を受け、「いつの時代も、その時代の音楽は農民の音楽から作り上げられている。だから自分も農民や漁民の音楽から、現代に呼応する音楽を創造しなければならない」と考えるようになりました。
多くの民謡を採譜し、それを元に歌曲の創作を始めましたが、東京時代には、どれほど多くの民謡に触れ、繰り返し聴いても、どこか心から深く共鳴し、入り込むことができない感覚が拭えませんでした。転機が訪れたのは、鹿児島に赴任し、鹿児島県の高等学校音楽研究会で講師を務めたことでした。この縁で、合唱指揮者の住吉三滋と出会います。日本の音楽教育について語り合う中で意気投合した二人は、共に南島の民謡採取に赴くようになります。合唱界の事情に明るかった住吉は、福島の歌曲作品を合唱用に編曲することを強く勧めました。それまで合唱作品にはあまり馴染みがなかった福島でしたが、この出会いを機に合唱曲の作曲へと創作の軸足を移すこととなります。一方、住吉は福島の作品、特に「南島歌遊び」などを積極的に演奏し、昭和後期における合唱コンクールで目覚ましい成果を上げ、福島作品の普及に大きく貢献しました。
代表作品
彼の代表的な作品には、以下のようなものが挙げられます。
混声合唱組曲『きけわだつみのこえ』
女声合唱とピアノのための『美しき南の島の歌』
無伴奏女声合唱のための『南島歌遊び』
無伴奏女声合唱のための『道之島唄』
女声(童声)合唱組曲『ニライカナイの彼方から』
混声合唱組曲『球磨川』
* 管弦楽のための『ヤポネシア組曲』
福島雄次郎は、自身のルーツである日本の風土と人々の声に深く根差した音楽を追求し、特に合唱の分野において、その独創的な世界を確立しました。彼の作品は、日本の合唱界に新たな息吹をもたらし、今なお多くの人々に歌い継がれています。
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