秋道智彌

1946年4月23日、京都府京都市に誕生した秋道智彌は、日本の人類学において生態人類学、海洋民族学、民族生物学の確立に貢献した研究者です。

幼少期を京都で過ごし、洛星高等学校を卒業後、京都大学理学部動物学科で学び、1968年に卒業しました。さらに学問を深めるため、東京大学大学院理学研究科人類学専攻に進み、1977年に博士課程を修了しています。

大学院修了後、国立民族学博物館に助手として着任し、その後、助教授、教授へと昇進。民族文化研究部長も務めるなど、同博物館の研究活動の中心的な役割を担いました。1986年には、「パプア低地・ギデラ族の小児の発育におよぼす環境要因の生態学的研究」と題する論文を東京大学に提出し、理学博士の学位を取得しています。

2002年からは、総合地球環境学研究所の教授として活躍の場を移しました。さらに、2016年に開館した山梨県立富士山世界遺産センターの所長も務めるなど、研究者としてだけでなく、社会への貢献活動も積極的に行っています。現在は、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館、そして総合研究大学院大学の名誉教授の称号を有しています。

秋道氏の専門は文化人類学の中でも特に、人間と環境の関係を深く掘り下げる生態人類学、海に暮らす人々の文化や生活様式を探求する海洋民族学、そして民族固有の生物に関する知識や利用法を研究する民族生物学です。研究の対象地域は日本国内にとどまらず、東南アジアやオセアニアなど広範囲にわたり、特に漁撈を生業とする人々の生態や文化に関する精力的な調査・研究活動を展開してきました。

その業績は高く評価されており、1998年には大同生命地域研究奨励賞を受賞しています。また、海洋政策研究所の名誉研究員も務めるなど、多方面でその専門知識が活かされています。

多岐にわたる研究成果は、数多くの著作として発表されています。主なものには以下のような単著があります。

『魚と文化：サタワル諸島民族魚類誌』海鳴社 1984
『海人の民族学』NHKブックス 1988
『アユと日本人』丸善ライブラリー 1992
『クジラとヒトの民族誌』東京大学出版会 1994
『海洋民族学』東京大学出版会 1995
『なわばりの文化史：海・山・川の資源と民俗社会』小学館 1995
『コモンズの人類学 文化・歴史・生態』人文書院 2004
『クジラは誰のものか』ちくま新書 2009
『コモンズの地球史：グローバル化時代の共有論に向けて』岩波書店 2010
『生態史から読み解く環・境・学」なわばりとつながりの知』昭和堂 2011
『漁撈の民族誌 東南アジアからオセアニアへ』昭和堂 2013
『海に生きる 海人の民族学』東京大学出版会 2013
『越境するコモンズ：資源共有の思想をまなぶ』臨川書店 2016
『魚と人の文明論』臨川書店 2017
『食の冒険: フィールドから探る』昭和堂 2018
『たたきの人類史』玉川大学出版部 2019

また、編著書、共編著書も多数あり、他の研究者との共同研究にも積極的です。

編著

『野生生物と地域社会：日本の自然とくらしはどうかわったか』昭和堂 2002
『図録メコンの世界：歴史と生態』平凡社 2007
『水と世界遺産：景観・環境・暮らしをめぐって』小学館 2007
『水と文明：制御と共存の新たな視点』昭和堂 2010
『日本の環境思想の基層：人文知からの問い』岩波書店 2012
『日本のコモンズ思想』岩波書店 2014

共編著

『生態人類学を学ぶ人のために』市川光雄・大塚柳太郎と共編、世界思想社 1995
『森はだれのものか?：アジアの森と人類の未来』日高敏隆と共編、昭和堂 2002
『東南アジアの森に何が起こっているのか：熱帯雨林とモンスーン林からの報告』市川昌広と共編、人文書院 2007
『人と魚の自然誌：母なるメコン河に生きる』黒倉寿との共編、世界思想社 2008
『水と環境 人と水 1』小松和彦・中村康夫と共編、勉誠出版 2010
『水と生活 人と水 2』小松和彦・中村康夫と共編、勉誠出版 2010
『水と文化 人と水 3』小松和彦・中村康夫と共編、勉誠出版 2010
『交錯する世界 自然と文化の脱構築』フィリップ・デスコーラと共著、京都大学学術出版会 2018
『海とヒトの関係学 ①日本人が魚を食べ続けるために』角南篤と共編著、西日本出版社 2019
『海とヒトの関係学 ②海の生物多様性を守るために』角南篤と共編著、西日本出版社 2019

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