稲置

稲置（いなぎ）についての詳細

概要

稲置は、古代日本に存在した県（こおり）を管理する首長の名称です。その起源は、律令制や大化の改新以前の時代にさかのぼり、684年に制定された八色の姓という制度において最下位に位置づけられていました。興味深いことに、実際にはこの姓は一度も賜姓や運用されることがなかったとされています。

稲置という役職にはいくつかの理解があり、主に屯田（みた）や屯倉（みやけ）に関連した皇室領の管理者や税務官という説と、国家の下級地方組織である県や評（こおり）の長という役割に焦点を当てた説が存在します。これらの役職は皇室の家政機関である内廷に密接な関係があると考えられています。

その活動範囲は主に畿内とその周辺に限られ、支配域は律令制下の郷ほどの規模となっていました。『隋書』の記載によると、当時の日本には地域のリーダーである軍尼が存在し、その位置は今でいう里長のような役割を果たしていました。この「伊尼翼（冀）」と呼ばれる存在が、稲置と同一視されることが言及されています。

歴史的背景

『日本書紀』の情報を基にすると、景行天皇は「諸国に令して田部屯倉を興つ」と記録されています。また、成務天皇も「諸国に令して国郡に造長を立て、県邑に稲置を置つ」と述べています。これらの記録は、稲置がいかに重要な役職であったかを物語っています。

歴史学者の中田薫は、県主を朝廷直轄領の長と見なし、『隋書』の「伊尼翼」に触れることで、国と県という地方行政制度が大化の改新前から存在していたことの重要性を強調しました。このため、「稲置」を「県主」とする見解が支持されるのです。

一方、井上光貞は、7世紀初頭にはすでに国と県からなる行政組織が成立していたものの、地域によってその状況は異なり、小国は県を持たず「国」として存在していたと主張しています。そして、上田正昭は隋書の記録に誇張が多いとする立場から、県の存在が大和朝廷の国家権力の拡大に関連していると指摘し、県が意味を失っていったと論じています。

結論

大化の改新後、稲置の役割は実質的に削減され、その後は八色の姓制度により第八位の姓として位置づけられました。このように、稲置の制度や役割は古代日本の行政構造と深く関連しており、その後の地方政治や社会構造に影響を与えたことは明らかです。さらに、稲置は豪族の世襲官名としても機能し、地方社会の中での役割を果たしていたことが分かります。今もなお、稲置の名称は日本の歴史の中で重要な要素として位置づけられており、研究の対象となり続けています。

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