立原杏所

立原杏所（たちはら きょうしょ）

立原杏所（1786年 - 1840年）は、江戸時代中期から後期にかけての武士であり、南画家としても知られています。水戸藩の徳川治紀、斉脩、斉昭の3代に仕え、文化人としても活躍しました。

生涯

杏所は、水戸藩の彰考館総裁を務めた立原翠軒の長男として生まれました。立原家は常陸平氏大掾氏の流れを汲む家柄です。幼い頃から画才を発揮し、林十江や小泉斐（壇山）に画を学びました。また、月僊からも影響を受け、独自の画風を確立していきます。

文化9年（1812年）からは江戸小石川藩邸に勤務し、谷文晁に師事しました。この頃、中国の元代から清代にかけての絵画を模写し、特に惲寿平や沈南蘋の画風を研究したとされています。宮部雲錦からも画技を学び、その人格に感銘を受けました。

杏所の作品は、謹厳で品格があり、すっきりとした画風が特徴です。渡辺崋山、椿椿山、高久靄厓とも交流があり、華山が蛮社の獄で捕縛された際には、救出のために奔走しました。

晩年は脚気を患い、天保11年（1840年）に小石川の藩邸で亡くなりました。享年56歳。

人物

家系: 常陸平氏大掾氏の一門・鹿島氏の庶流。
家族: 父は立原翠軒、長女は南画家の立原春沙、次女は斉昭の側室・利子、三男は幕末の志士・立原朴二郎、子孫に詩人・立原道造。
師: 林十江、小泉斐、月僊、谷文晁、宮部雲錦
交流: 渡辺崋山、椿椿山、高久靄厓、巻菱湖、大橋淡雅

主な作品

芦山鴛鴦図（出光美術館） - 重要美術品
葡萄図（東京国立博物館） - 重要文化財
花木図（千葉市美術館寄託） - 重要美術品
向崗花甸図屏風（個人蔵） - 重要美術品
雪中小禽・柳下水禽図（水戸市立博物館） - 水戸市指定文化財

逸話

杏所には、その破天荒な性格を示す逸話がいくつか残っています。

講義先で馬を繋ぐのを忘れ、大洲侯の藩邸前まで馬が歩いて行ってしまった。
徳川斉昭が作らせた天狗の面があまりに鼻が高すぎたため、鋸で切り落として使い物にならなくしてしまった。
斉昭の前で書画を披露する際、使い古しの巾を硯に浸して紙に投げつけ、飛び散った墨で葡萄の絵を完成させ、一座を感嘆させた。
巻菱湖と酒を飲んでいる際、菱湖にからかわれたことに腹を立て、菱湖を楼下へ投げ落とした。
大橋淡雅の娘・巻子に恋心を抱くも、淡雅に反対され、その想いを癒すために楊貴妃図を描いた。

参考文献

森銑三編『人物逸話辞典 下巻』（東京堂出版、1987年）
『特別展 立原杏所とその師友』 茨城県立歴史館、2010年

立原杏所は、南画家としてだけでなく、水戸藩の藩士としても多才な人物でした。その作品は、現在も多くの人々に愛されています。

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