競合作品

競合作品とは

「競合作品（きょうごうさくひん）」とは、概ね同じ時期に、非常に似通った主題や構想に基づいて制作され、市場や観客・視聴者を取り合う関係にある作品群を指す言葉です。「ライバル作品」や「ライバルプロジェクト」と表現されることもあります。また、複数の制作主体が最初から互いを意識し、意図的に同一テーマで作品を作り合うことを「競作（きょうさく）」と呼びます。

これに対し、公開や発表の時期が数年以上離れている場合には、一般的に競合作品とは呼ばれません。そうしたケースでは、「類似作品」や「類似テーマの作品」といった表現が用いられます。

競合作品が生まれる背景には、様々な要因が考えられます。単に偶然、同じような発想が複数の企画者の間で同時に生まれたという場合もあれば、制作会社などに提出された企画書に含まれる作品の主題やコンセプトが、関係者を通じて外部に伝わり、それが改変されたり流用されたりして、新たな物語や作品として採用されたケースも少なくないとされています。

様々なメディアにおける競合

競合作品という現象は、特定のメディアに限らず、映画、テレビドラマ、アニメ、音楽、ゲーム、出版など、多岐にわたるエンターテインメント分野で見られます。特に大規模なプロジェクトでは、同じような題材や流行を捉えようとする動きが重なり、結果として競合関係が生じやすい傾向があります。

映画の代表的な例

映画業界では、特定の年の流行や話題性のあるテーマを巡って、複数のスタジオや制作会社が同時期に作品を公開し、興行成績を競う事例が多く見られます。ここでは、主に公開時期が近い著名な作品、または関連資料で競合作品として言及される例をいくつか紹介します。

1950年代:
『自由学校』: 1951年、獅子文六の同名小説を松竹と大映がそれぞれ映画化し、公開週を合わせた競作として話題になりました。

1960年代:
『ベン・ハー』（1959年）と『スパルタカス』（1960年）: 共に「古代ローマ」を舞台にした歴史スペクタクル超大作として比較されます。

1980年代:
『007 オクトパシー』と『ネバーセイ・ネバーアゲイン』（1983年）: 「ジェームズ・ボンド」を題材にした作品ですが、権利関係の違いから生まれた本家シリーズと別系統の作品です。
『地獄のヒーロー』（1984年）、『ランボー/怒りの脱出|ランボー_怒りの脱出』（1985年）、『コマンドー』（1985年）: 肉体派俳優が一人で敵をなぎ倒す「ワンマンアーミー」系アクション映画の代表例です。
『アビス』、『リバイアサン』、『ザ・デプス』（1989年）: 「深海探査や海底生物」をテーマにしたSFホラー作品が同時期に公開されました。

1990年代:
『トゥームストーン』（1993年）と『ワイアット・アープ』（1994年）: 西部劇の有名な出来事「OK牧場の決闘」を扱った作品です。
『四十七人の刺客』と『忠臣蔵外伝 四谷怪談』（1994年）: 東宝と松竹がそれぞれ「忠臣蔵」を題材に製作した作品です。
『ボルケーノ』と『ダンテズ・ピーク』（1997年）: 「火山の噴火」をパニック映画として描いた作品です。
『アルマゲドン』と『ディープ・インパクト』（1998年）: 「地球への巨大天体衝突」という危機を描いたSFパニック映画です。
『アンツ』と『バグズ・ライフ』（1998年）: 「虫（特にアリ）」を主人公にしたフル3DCGアニメーション映画です。

2000年代:
『レッドプラネット』と『ミッション・トゥ・マーズ』（2000年）: 「火星探査」をテーマにしたSF映画です。
『カポーティ』（2005年）と『インファマス』（2006年）: 作家トルーマン・カポーティの伝記映画です。

2010年代:
『はやぶさ/HAYABUSA|はやぶさ_HAYABUSA』（2011年）、『はやぶさ 遥かなる帰還』（2012年）、『おかえり、はやぶさ』（2012年）: 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還を題材に、映画大手3社が競うように製作・公開したことで注目されました。
『白雪姫と鏡の女王』と『スノーホワイト』（2012年）: 有名なおとぎ話『白雪姫』を再解釈して描いた作品です。
『エンド・オブ・ホワイトハウス』と『ホワイトハウス・ダウン』（2013年）: 米国大統領府「ホワイトハウスへのテロ攻撃」というシチュエーションを描いたアクション映画です。
『アフター・アース』と『オブリビオン』（2013年）: 人類が地球を去った後の荒廃した地球を舞台にしたSF映画です。
スティーブ・ジョブズを題材にした映画: 『スティーブ・ジョブズ (Jobs)』（2013年）と『スティーブ・ジョブズ (Steve Jobs)』（2015年）があります。
ドローンを題材にした映画: 『ドローン・オブ・ウォー』（2014年）と『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』（2015年）があります。
エドワード・スノーデンを題材にした映画: ドキュメンタリーの『シチズンフォー スノーデンの暴露』（2016年）と伝記映画の『スノーデン』（2017年）があります。
ボストンマラソン爆弾テロ事件をテーマにした映画: 『パトリオット・デイ』（2017年）と『ボストン ストロング 〜ダメな僕だから英雄になれた〜』（2018年）があります。

公開時期が数年離れていても、類似のテーマやジャンルであることから比較される「ライバル・類似作品」と呼ばれる例も多く存在します。

第二次世界大戦の特定の作戦を扱った戦争映画（『史上最大の作戦』と『プライベート・ライアン』、真珠湾攻撃を扱った『トラ・トラ・トラ!』と『パール・ハーバー』など）
ロボットの反乱や異星人との戦闘を描いたSF映画（『ウエストワールド』と『ターミネーター』、『エイリアン』と『プレデター』など）。『エイリアン』と『プレデター』のように、後にクロスオーバー作品（『エイリアンVSプレデター』）が制作されることもあります。
スラッシャーホラー映画（『13日の金曜日』と『エルム街の悪夢』など）。こちらもクロスオーバー作品（『フレディVSジェイソン』）があります。
日本のホラー映画でJホラーブームを牽引した『リング』と『呪怨』も比較されやすく、後にクロスオーバー作品『貞子vs伽椰子』が公開されました。

メディアミックス作品の競合

ゲーム、アニメ、音楽など複数のメディアを組み合わせたメディアミックスプロジェクトにおいても競合関係は見られます。「アイドル」をテーマにした作品群として、『アイドルマスター』（2005年開始）、『ラブライブ!』（2010年開始）、『アイカツ!』（2012年開始）は、開始時期に差はありますが、一般的に競合作品として認識されています。

これらの作品は、それぞれターゲットとする層が異なるため、実際のアイドルのように熱狂的なファン層が互いに敵対し、「ファンの奪い合い」のような状況になることは比較的少ないとされています。興味深い例として、上記のアイドル系作品の多くは、バンダイナムコグループが制作の中心を担っており、同一企業グループ内での競合関係となっている点が挙げられます。

音楽分野の競作

ポピュラー音楽、特に日本の演歌の分野では、同一の楽曲を複数の歌手が歌う「競作」が非常に多く行われます。耳に残るメロディや印象的な歌詞を持つ楽曲を、複数の歌手が競い合って歌うことで、それぞれの相乗効果によって楽曲の認知度や市場での存在感を高め、結果として全体の売上向上につながるという戦略がとられます。

発表時期がずれて、実質的に先行するバージョンに対するカバーという形をとるケースも見られます。『氷雨』、『男と女のラブゲーム』、『浪花節だよ人生は』といった楽曲は、競作によって広く知られるようになった代表的な例です。

競合の背景と影響

競合作品の発生は、エンターテインメント産業におけるトレンドや市場の動向を色濃く反映しています。特定のジャンルやテーマが注目を集めると、複数の作り手がそれに乗じようとしたり、先行する企画に対抗しようとしたりする動きが生まれます。偶然の産物である場合もあれば、意図的な戦略の結果である場合もあります。

競合関係は、作品の質を向上させる競争を促す側面もあれば、観客や消費者を混乱させたり、パイの奪い合いになったりする側面も持ち合わせます。また、予算規模や宣伝力によって、有利不利が生じることも少なくありません。

関連する概念として、著名な大作映画の公開時期に合わせて、意図的に類似したテーマやタイトルを持つ低予算映画を制作・公開し、観客の誤認を誘う「モックバスター」という手法も存在します。これは競合作品とはやや性質が異なりますが、市場での競争意識から生まれる現象と言えるでしょう。

競合作品という現象は、文化や産業のダイナミズムを示す興味深い事例であり、時代の流行や社会の関心を映し出す鏡とも言えます。

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