笑福亭松喬 (6代目)

六代目 笑福亭 松喬

六代目 笑福亭 松喬（しょうふくてい しょきょう、1951年2月10日 - 2013年7月30日）は、兵庫県小野市出身の上方落語家です。本名は高田敏信といい、AB型の血液型でした。所属事務所は松竹芸能、上方落語協会の会員でもありました。高座に上がる際の出囃子には「高砂丹前」を用いていました。

落語家への道のり

実家が理髪店を営む家庭に育ちましたが、12歳で父親を亡くしました。父親に連れられて神戸松竹座へ度々足を運んだ幼少期の経験は、後の人生に影響を与えたようです。父親不在のため高校進学を諦め、神戸市内の理髪店で働くことになります。しかし、就職後も寄席通いは続け、その中で見た六代目笑福亭松鶴の「相撲場風景」に感銘を受け、「これなら自分にもできるかもしれない」という思いを抱きました。

決意を固めた松喬師（当時は高田敏信）は、自作の落語（自身が落語家に入門を申し込む様子を描いたもの）を六代目松鶴のもとへ送りつけます。その後、松鶴師の自宅や道頓堀角座の楽屋を訪ね、熱意が認められて弟子入りを許されました。落語家になることには、実家の理髪店を継いでほしいと願っていた母親からの反対もありましたが、粘り強く説得し、同意を得て入門を果たしました。正式な入門日は1969年1月18日です。この時与えられた高座名は笑福亭鶴三（しょうふくてい かくざ）で、これは二代目にあたる名跡でした。

兄弟子である笑福亭鶴光師によると、入門当時すでに自動車運転免許を持っていたことから、鶴光師に代わって六代目松鶴師の運転手を務めることになったといいます。師匠からの稽古は非常に厳しく、特に噺の覚えが悪かったことや、播州弁の訛りがあったことから、しばしば罵言を浴びせられながら叱責を受けたそうです。下積みの時代は、クラブでのアルバイトで生計を立てる日々でした。

襲名と飛躍

1983年7月1日、自身の初の独演会を朝日生命ホールで開催します。この独演会の口上で、師匠である六代目松鶴師は涙を交えながら「鶴三の初めての独演会、私にとってもこれほど嬉しいことはこざいません。これを機会に笑福亭松喬を、私はどうしても継いで欲しいと思っています」と述べました。これは鶴三師に事前に相談されていたことではなく、本人も「松喬」という名跡を全く知らなかったというエピソードが残っています。

師匠の六代目松鶴師が1986年9月に亡くなった後、師の遺志を継ぐ形で襲名の運びとなりました。そして、1987年1月21日、道頓堀に新たにオープンした浪花座のこけら落とし興行の一つとして、六代目 笑福亭 松喬襲名披露特別興行が盛大に行われました（興行は1月23日まで）。関西における落語家の襲名披露興行としては、1973年以来13年ぶりの出来事であり、この興行には、東京の古今亭志ん朝師も初めて大阪での襲名披露口上に参加するなど、東西落語界にとっても記念すべき会となりました。

襲名後の1987年9月には、五代目笑福亭枝鶴師が「六代目笑福亭松鶴追善特別興行」の初日に失踪するという事態が発生しましたが、松喬師は劇場前で振る舞い酒の司会をしている最中に代演を頼まれ、枝鶴師が演じる予定だった「鴻池の犬」や「らくだ」を見事に演じ、その場を救いました。

1996年には、入門が同期であった東京の柳家小里ん師、六代目古今亭志ん橋師と共に「東西三人会」を結成し、東西交流の架け橋となりました。この会は2011年12月までに44回を数える長寿企画となりました。

海外での活動も行っており、2005年7月1日には、日本語を学ぶ中国人学生向けに、北京の3つの大学で一門会を開催しています。

病との闘い、そして晩年

2010年12月23日には、東京の新橋演舞場で「笑福亭松喬還暦落語会」を開催するなど、精力的な活動を続けていましたが、2011年12月に末期の肝臓癌であることが告知されました。その後、抗がん剤治療や放射線治療を受け、入退院を繰り返す中でも、公演活動や弟子の指導を継続しました。しかし、2013年7月21日に予定されていた独演会は体調不良のため休演となり、その9日後の2013年7月30日午後4時30分、肝臓癌のため大阪市西区の病院で亡くなりました。享年62歳でした。戒名は「笑福院信道松喬居士」です。

人物像と業績

落語家としての活動に加え、噺家としての修行や人間関係をテーマにした講演活動を行ったり、役者としても活動するなど、多角的な才能を発揮しました。私生活では多趣味で知られ、釣りを好んだほか、蕎麦打ちや陶芸などにも親しんでいました。また、落語界きっての食通を自認し、鯨ベーコンを好んだといわれています。

敬子夫人との間に生まれた息子である高田健太氏は、落語家の道には進まず、起業家を志しました。大学卒業後、丸紅に勤務し、自身の希望でミャンマーへ赴任したことをきっかけに独立。2019年10月からは、現地で電子商取引モールと自転車による配達を組み合わせた「Hi-So（ハイソー）」というサービスを展開しています。

受賞歴としては、1987年に「第12回上方お笑い大賞」銀賞、1988年に「咲くやこの花賞」大衆芸能部門、1989年に大阪府民劇場奨励賞、1996年および2007年には文化庁芸術祭賞（後者で大賞）を受賞するなど、高く評価されました。

多くの音源も残されており、複数のレーベルからCDやDVDがリリースされています。主なものに、自主制作盤の「笑福亭松喬 落語全集」や「松喬手作りCD」、メジャーレーベルからは「6代目 笑福亭松喬 上方落語集」「六代目 笑福亭松喬 上方落語名演集」、そして晩年の高座を収録したDVD「笑福亭松喬ひとり舞台ファイナル」などがあります。

また、著書として、師匠・六代目松鶴について綴った『おやっさん - 師匠松鶴と私』（うなぎ書房、2011年）を出版しています。

多くの弟子を育て、七代目笑福亭松喬師をはじめ、笑福亭遊喬師、笑福亭生喬師、笑福亭喬楽師、笑福亭右喬師、笑福亭風喬師らがその門下から輩出されています。

ラジオ番組にも多数出演しており、鶴三時代にはラジオ関西で「鶴三・松枝の歌謡ひる亭」「鶴三・松枝のサテスタ歌謡フルコース」「歌うサテスタ ヤぁ ヤぁ ヤぁ!」などを担当し、朝日放送ラジオでも「歌謡大全集」に出演しました。

六代目 笑福亭 松喬師は、六代目松鶴師の厳しい薫陶を受け、その名跡を継いで上方落語の発展に貢献しました。晩年は病と闘いながらも最後まで高座に立つ姿は、多くの人々に感動と勇気を与えました。落語家としてだけでなく、人間としても魅力的な人物でした。

主な受賞歴

1987年：第12回上方お笑い大賞 銀賞
1988年：咲くやこの花賞 大衆芸能部門
1989年：大阪府民劇場奨励賞
1996年：文化庁芸術祭賞
2007年：文化庁芸術祭大衆芸能部門 芸術祭大賞

音源・著作

CD
笑福亭松喬 落語全集1（全7集、インディーズ盤）
笑福亭松喬 落語全集2（全10集、インディーズ盤）
松喬手作りCD（インディーズ盤）
上方落語名人選 笑福亭鶴光 笑福亭松喬 - 珍品抱腹上方お色け噺 -
6代目 笑福亭松喬 上方落語集
六代目 笑福亭松喬 上方落語名演集
DVD
平成紅梅亭 特選落語会 饗宴!夢の前夜祭
笑福亭松喬ひとり舞台ファイナル
著書
『おやっさん - 師匠松鶴と私』（うなぎ書房、2011年）

弟子

七代目笑福亭松喬
笑福亭遊喬
笑福亭生喬
笑福亭喬楽
笑福亭右喬
* 笑福亭風喬

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