第一次世界大戦の賠償

第一次世界大戦の賠償問題：複雑な経緯とその影響

第一次世界大戦後、連合国はドイツを中心とする中央同盟国に対し、巨額の賠償金を課しました。この賠償問題は、戦後の国際関係、特にドイツ経済に深刻な影響を与え、その後の歴史の流れを大きく左右しました。以下に、その経緯を詳細に解説します。

賠償要求決定の背景

1918年11月、ドイツ帝国はアメリカに休戦を申し入れ、休戦協定が締結されました。この協定の基礎となったのは、アメリカのウィルソン大統領が提唱した「十四か条の平和原則」でした。当初、この原則には「無賠償」の考えが含まれていましたが、イギリスやフランスは賠償を強く求めました。

イギリスは、戦費をアメリカからの借り入れで賄っていたため、賠償金なしでは返済が困難でした。また、フランスはドイツの弱体化と自国の復興のため、賠償を譲ることはできませんでした。イギリス首相ロイド・ジョージは賠償金要求を否定しつつも、賠償がなければ講和は不可能であると主張し、賠償要求の可能性を排除しませんでした。一方でフランス首相クレマンソーは、最大の被害国として賠償を強く求めました。

イギリスの国内事情

イギリス大蔵省は、ドイツに課す賠償額策定を担当しました。当初、支払可能額は20億から40億ポンドと見積もられましたが、一部閣僚はこれを不服とし、オーストラリア首相ヒューズを委員長とする委員会が新たな報告書を作成しました。この報告書では、賠償請求額は戦前のドイツ貯蓄を基準に240億ポンドとされました。また、総選挙を前に、対独強硬論を唱える新聞が世論を煽り、全額賠償を求める声が高まりました。ロイド・ジョージは選挙対策として賠償要求を強め、240億ポンドの賠償請求額を公表しました。選挙の結果、ロイド・ジョージの与党は議席を減らし、保守党が勢力を伸ばしました。

パリ講和会議

1919年1月、パリ講和会議が開始され、賠償問題が協議されました。当初の争点は、フランスによるザールラントの領有、ライン川左岸の占領、そして賠償金でした。会議では、賠償額を巡り、フランスは強硬な姿勢を示し、イギリスはドイツをあまりに拘束することは復讐心をかき立てると懸念しました。また、アメリカは戦費を賠償対象に含めることに反対しました。

巨頭会談とは別に、賠償委員会が設立されました。委員会では、戦費を含めるべきとするイギリスと、損害の補償に限定しようとするアメリカの意見が対立しました。最終的に、アメリカは債務削減に応じないことを表明し、3月にはドイツの支払い能力を考慮した1200億マルクという賠償額が勧告されました。その後も、米英仏の間で意見の隔たりが埋まらず、賠償額の決定は先送りされました。最終的に、賠償に軍人恩給を含めるべきとする英仏の主張が通り、ヴェルサイユ条約にはドイツの恩給支払いが盛り込まれました。

ヴェルサイユ条約と賠償内容

1919年6月、ヴェルサイユ条約が署名され、第231条で大戦の責任が「ドイツ及びその同盟国」にあることが明記されました。第232条では、ドイツに完全な補償を行う能力がないことを確認した上で、損失に対する補償を行うべきことが定められました。ヴェルサイユ条約では、一定の物納による賠償が定められましたが、賠償金総額は決定されず、後日、独立の賠償委員会で協議されることになりました。賠償の対象は、戦争による死傷者への補償、民間人への損害賠償、捕虜虐待への補償、恩給、物損、船舶賠償、家畜、石炭納入など多岐にわたりました。

賠償金額の決定と支払い

賠償委員会は1920年から1921年にかけて12回の会議を開きましたが、英仏の意見対立により難航しました。最終的に、1921年5月、賠償総額は1320億金マルク（約66億ドル）と決定しました。これは、1913年のドイツ国民総所得の2.5倍に相当する莫大な金額でした。ドイツは、この金額を30年間にわたって分割払いすることになり、最初の5年間は年20億マルク、その後は徐々に増額されることになりました。しかし、この賠償金は、ドイツ経済に大きな負担となり、国民の反発を招きました。

ケインズの批判

経済学者ケインズは、賠償金額が過大であると批判し、著書「平和の経済的帰結」で賠償強硬派を批判しました。ケインズは、ドイツの支払い能力を考慮すると、賠償金は大幅に減額されるべきだと主張しました。彼は、予算問題とトランスファー問題により、ドイツの賠償支払いが著しく困難になることを指摘しました。予算問題とは、賠償支払いのためにドイツ政府が財政黒字を計上しなければならないこと、トランスファー問題とは、外貨での支払いのために経常収支が黒字である必要があることを指します。

ルール占領とインフレーション

ドイツの賠償金支払いが滞ると、フランスは1923年1月、ルール地方を占領しました。ドイツ政府は消極的抵抗で対抗し、労働者はストライキに入りました。政府はストライキ中の労働者に賃金を支払うために紙幣を増発した結果、インフレーションがさらに激化しました。マルクの価値は暴落し、最終的には天文学的なインフレに達しました。この事態を受けて、ドイツは連合国との再交渉に臨むことになります。

ドーズ案とヤング案

1924年、賠償委員会はドーズ案を策定しました。ドーズ案は、賠償額を段階的に増やし、ドイツがマルクで支払い、債権国が外貨に変換するというもので、ドイツ経済は一時的に安定しました。しかし、賠償金総額や支払い年数は明確でなかったため、1929年にはヤング案が策定されました。ヤング案は、賠償残額を358億1400万ライヒスマルクと確定し、59年賦で支払うことを定めました。また、賠償金支払いを非政治化するため、国際決済銀行が設立されました。

賠償金支払いの停止

1929年の世界恐慌により、ドイツは賠償金支払いが困難となり、1931年には支払いを停止しました。フーヴァーモラトリアムにより、一時的に支払い猶予が認められましたが、その後もドイツの経済状況は改善せず、賠償金支払いは再開されませんでした。1932年のローザンヌ会議で、賠償は30億ライヒスマルクの支払いで終了することが合意されましたが、ナチ党や共産党の反対により、批准はされませんでした。

賠償金支払いの再開

ナチス・ドイツ崩壊後、1953年に西ドイツはロンドン債務協定を締結し、戦前の債務の支払いを約束しました。これにより、ドーズ案とヤング案で発行された公債の利子支払いが再開され、1969年と1980年に満期を迎えました。ドイツ再統一後、残りの利子支払いも再開され、2010年に大部分が完了しました。

ドイツ以外の賠償

第一次世界大戦の賠償は、ドイツだけでなく、ブルガリア、オーストリア、ハンガリー、トルコなどの国々にも課せられました。これらの国々も、賠償金支払いや物資の提供によって経済的負担を強いられました。

まとめ

第一次世界大戦の賠償問題は、戦後ヨーロッパの経済と政治に大きな影響を与えました。過大な賠償金は、ドイツ経済を疲弊させ、インフレーションを引き起こし、ナチ党の台頭を招く一因となりました。また、連合国間の対立や債務問題も複雑に絡み合い、国際関係にも大きな影響を与えました。賠償問題は、戦後の国際秩序の形成に大きな教訓を残し、歴史的な重要性を持つ問題です。

この賠償問題は、単に戦後処理の問題にとどまらず、国際政治と経済の相互作用、そして歴史の教訓を学ぶ上で非常に重要な事例と言えるでしょう。

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