第三舞台

第三舞台（だいさんぶたい）

第三舞台は、劇作家・演出家の鴻上尚史が主宰し、株式会社サードステージが運営した日本の劇団です。1980年代から90年代にかけて、日本の小劇場演劇界を牽引した「第三世代」を代表する劇団の一つとして、多くの観客に親しまれました。

結成と黎明期

劇団は1981年5月、早稲田大学演劇研究会に属する一つのアンサンブルとして産声を上げました。主宰の鴻上尚史をはじめ、岩谷真哉、大高洋夫、名越寿昭といった5人の男性俳優が初期メンバーとして活動を開始。当時の流行であったルービックキューブや、サミュエル・ベケットの不条理劇『ゴドーを待ちながら』を下敷きにした鴻上のオリジナル戯曲『朝日のような夕日をつれて』を、大学構内のテントで上演し、旗揚げを果たしました。

同年10月には、新たに小須田康人や長野里美らが加わり、ゴーリキーの『どん底』をモチーフにした第二戯曲『宇宙で眠るための方法について』を上演。翌1982年5月には、第三戯曲『プラスチックの白夜に踊れば』を、初めて大隈講堂前広場の特設テントで上演しました。これら三作品は直接的な筋の繋がりはありませんが、「世界の終わり」という共通の緩やかなテーマを内包しており、鴻上はこれを「核戦争三部作」と称しました。

劇場への進出とプロ化

1983年2月、池袋の劇場シアターグリーンのフェスティバルに参加し、『朝日のような夕日をつれて』を上演。これが劇団にとって初の劇場公演となりました。同年10月にはテント公演『デジャ・ヴュ』がマスコミに取り上げられ、次第に演劇界の注目を集めるようになります。1984年2月、ザ・スズナリでの『宇宙で眠るための方法について』の再演は、劇団の評価をさらに高めました。この頃、鴻上の戯曲集も刊行されるなど、その活動は本格化していきます。

劇団のスタイルは、当時の風俗を取り込んだ軽妙でリズミカルな会話、流行の音楽を多用したダンスシーン、そしてスピーディーな場面転換が特徴でした。1980年代初頭の若者を中心に熱狂的な支持を得る一方、作品の根底に流れる虚無感や閉塞感から「明るい虚無」と評されることもありました。

プロ化への道のりは順調だけではありませんでした。大高洋夫が一時的に劇団を離れたり、岩谷真哉がバイク事故で急逝するという悲劇も経験しましたが、これらの困難を乗り越え、劇団は成長を続けます。1984年、ザ・スズナリでの『モダン・ホラー』公演を最後に、早稲田大学演劇研究会から独立し、プロの劇団としての活動を開始しました。

隆盛期と多様な活動

1985年1月、鴻上の幼馴染である細川展裕を制作として迎え、『朝日のような夕日をつれて '85』を上演し、紀伊國屋ホールに初進出しました。同年10月にはザ・スズナリで新作『もうひとつの地球にある水平線のあるピアノ』を上演しましたが、観客動員の多さから、この規模の劇場では手狭になったことを鴻上は述べています。1986年2月には『デジャ・ヴュ'86』として東京・紀伊國屋ホールと大阪・近鉄小劇場で初の地方公演を成功させました。同年12月のサンシャイン劇場での新作『ハッシャ・バイ』は、1ヶ月の公演で延べ2万人を動員し、当時の小劇場動員記録を更新しました。

鴻上は毎年のように岸田國士戯曲賞の候補に挙がるものの、その軽妙な作風が評価に繋がらず、「万年岸田賞候補作家」と自称するようになります。一方、劇団としては「演劇で生活できる劇団」を目指し、筧利夫、勝村政信ら、劇団員のテレビ出演などの外部活動を積極的に支援しました。名越寿昭は『ハッシャ・バイ』をもって退団しましたが、既に退団していた池田成志が客演として度々舞台に立つこともありました。

1980年代末からは、劇団員が鴻上以外の演出家の作品にも出演するようになり、活動の幅を広げながらも、第三舞台は人気劇団としての確固たる地位を築きました。1991年にはエディンバラ・フェスティバルに参加し、『天使は瞳を閉じて インターナショナル・ヴァージョン』をイギリスで上演。同年、第29回ゴールデン・アロー賞演劇賞を受賞しています。

岸田賞受賞、活動縮小、そして封印

鴻上尚史は1994年、『スナフキンの手紙』でようやく第39回岸田國士戯曲賞を受賞しました。しかしこの頃から、劇団員の外部での活躍が本格化し、劇団として全員が集まって公演を行うスケジュールを確保することが困難になっていきます。長野里美や鴻上自身のイギリス留学なども重なり、劇団としての公演回数は徐々に減少していきました。

2001年、劇団結成20周年を記念する公演として『ファントム・ペイン』を上演。この公演をもって、第三舞台は10年間の活動封印を発表しました。

封印解除から解散へ

10年の時を経て、2011年1月28日に第三舞台の復活ホームページが開設され、鴻上によって活動封印の解除が表明されました。しかし、その半年後の同年7月21日には、鴻上から劇団の解散が発表されます。そして、約31年間にわたる劇団の歴史は、2012年1月15日に福岡で行われた最終公演『深呼吸する惑星』をもって、静かに幕を閉じました。

解散時の劇団員構成は、活動封印中のマネージメント部の独立や、鴻上が新たに立ち上げた「虚構の劇団」のメンバーがサードステージに所属するなど、複雑な変遷を辿りました。多くの劇団員経験者は、解散時には他のプロダクションに所属していました。

主な上演作品（一部）

『朝日のような夕日をつれて』
『宇宙で眠るための方法について』
『プラスチックの白夜に踊れば』
『デジャ・ヴュ』
『モダン・ホラー』
『もうひとつの地球にある水平線のあるピアノ』
『ハッシャ・バイ』
『リレイヤー』
『天使は瞳を閉じて』
『スナフキンの手紙』
『ファントム・ペイン』
『深呼吸する惑星』

また、劇団員がECHOESの楽曲「WINGS」にポエトリーリーディングで参加するなど、演劇以外の分野でもユニークな活動を行いました。第三舞台は、その時代の空気を取り込んだ作品世界と、才能豊かな俳優陣の活躍によって、日本の現代演劇に大きな足跡を残しました。

関連事項
KOKAMI@network
虚構の劇団

参考
株式会社サードステージ公式サイト
『大隈裏 1967 - 1989 早大演劇研究会と舞台美術研究会の22年』

※公演歴は第三舞台単独の公演のみ。サードステージプロデュースは除く。

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