第43回世界遺産委員会

第43回世界遺産委員会：バクー会議の全容

2019年6月30日から7月10日にかけて、アゼルバイジャンの首都バクーで第43回世界遺産委員会が開催されました。バクー・コングレス・センターを会場に、文化遺産、自然遺産、複合遺産合わせて29件が新たに世界遺産リストに登録され、総登録数は1121件となりました。

委員国と審議対象

委員会は、ユネスコの地域区分に基づいた各国からの代表で構成されました。審議では、新規登録の候補物件に加え、既存物件の拡大登録や名称変更、危機遺産リストへの登録・解除などが議論されました。特に、諮問機関であるICOMOSやIUCNの勧告が重視されました。

新規登録物件

第43回委員会では、自然遺産4件、複合遺産1件、文化遺産24件が新たに登録されました。新規に世界遺産保有国となった国はありませんでした。

危機遺産と名称変更

シュンドルボン（バングラデシュ）、ネセバルの古代都市（ブルガリア）など、いくつかの遺産が危機遺産リストへの掲載を検討されましたが見送られました。また、ウクライナのキーウ（キエフ）のように、名称の綴りのみが変更された例もありました。

その他の議題

委員会本開催前には、世界遺産ヤングプロフェッショナルフォーラムや世界遺産管理者フォーラムが開催され、若手専門家の育成や登録地間の連携が議論されました。また、世界遺産における盗掘や紛争の影響に対処するための「バクー宣言」が決議されました。

諮問機関の重要性の再確認

諮問機関の勧告を政治的思惑で覆す事態が増えていることを憂慮し、学術的観点である事前評価を重視することが再確認されました。推薦国が世界遺産センターへ提出する暫定版推薦書受理の段階から諮問機関が携わること、事前審査での現地調査費用の増加に伴い、その費用を推薦国に負担してもらうことも決定しました。

気候変動と水資源問題

気候変動や自然災害がもたらす世界遺産への影響を検討し、環境負荷が懸念される遺産の分析結果が発表されました。また、水インフラによる水生生態系の脅威も指摘され、ユネスコとして本格的に取り組むことが確約されました。

遺産の商品化と資源開発

世界遺産を観光資源と位置づけ、持続可能な観光を追求する協議が行われました。また、遺産の資源利用などに関する協議も行われ、戦略的環境アセスメントの重要性が確認されました。石炭火力発電に伴う影響も指摘され、2021年までに世界遺産域の石炭火力発電所の見直しも示唆されました。

日本関連の議題

知床のサケ産卵環境改善策や富士山の登山道混雑回避策が評価されました。2020年登録審査対象には、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島も含まれていました。

次回開催と組織体制

次回の第44回世界遺産委員会は中国の福州市で開催されることが決定しました。アゼルバイジャンでは、委員会開催のために国家を挙げて万全の体制が構築されました。

委員会に対する批評

運営費用の増大や、議長が自国の推薦物件の登録を強引に進めたこと、米国がユネスコ脱退後も推薦を行ったことなど、委員会に対する批判も存在します。また、経済活動が遺産に与える影響にも注意を払うべきとの意見が出されました。

第43回世界遺産委員会は、世界遺産の保全と持続可能な開発に関する重要な議論が行われた会議となりました。しかし、政治的思惑や経済的要因が遺産に与える影響など、課題も浮き彫りとなりました。これらの課題に対し、ユネスコや関係各国がどのように取り組んでいくかが、今後の世界遺産保護の鍵となるでしょう。

もう一度検索