第44回凱旋門賞

1965年凱旋門賞：シーバードの伝説

1965年10月3日、パリのロンシャン競馬場。第44回凱旋門賞は、競馬史に燦然と輝く一戦として記憶されています。このレースは、イギリスダービーを圧勝したシーバードと、フランスダービーを制したリライアンスという2頭の強豪の対決に注目が集まりました。しかし、この年の凱旋門賞は、それにとどまらず、アメリカ、ソビエト、イタリア、アイルランドといった国々から、それぞれの国の最強馬たちが集結した、文字通り世界最高峰の競走となりました。

史上最高レベルの競争

第二次世界大戦後、凱旋門賞の賞金は大幅に増加し、世界中から一流馬が集まる国際的な競走へと発展しました。しかし、常に各国最強馬が出走するとは限りませんでした。優勝候補が圧倒的に強い場合、馬主はリスクを避けて別のレースに出走させる傾向がありました。ところが、1965年はシーバードとリライアンスという2頭の圧倒的な強豪がフランスに存在したため、状況が一変します。世界のチャンピオンホースたちが、この2頭との対戦を避けるどころか、むしろ挑戦しようと集結したのです。

この年は、フランス産馬が初めてイギリスダービーを制覇してからちょうど100年という記念すべき年でもありました。イギリスダービーで圧勝したシーバードの出現は、フランス競馬界にとって大きな喜びとなりました。

出走馬たちの物語

シーバードは、フランス繊維メーカーの経営者、ジャン・テルニンク氏の所有馬。2歳時からその才能を示し、3歳春にはグレフュール賞で鮮やかな勝利を収めます。リュパン賞ではダイアトムに6馬身差をつけ圧勝し、イギリスダービーでも圧倒的な強さを見せつけました。サンクルー大賞典でも古馬相手に楽勝し、凱旋門賞には7戦6勝の好成績で臨みました。

リライアンスは、フランスの名馬主フランソワ・デュプレ氏の所有馬。全兄にキングジョージ6世＆クイーンエリザベスステークス優勝馬、半兄にイギリスダービー優勝馬を持つ名門の血統を受け継いでいました。フランスダービーでは、カルヴァンやダイアトムといった強豪を相手に逃げ切り勝ち。パリ大賞典、ロワイヤルオーク賞と3つのクラシックレースを制覇し、5戦無敗で凱旋門賞に挑みました。唯一の懸念材料は、凱旋門賞直前の落馬事故で負傷した主戦騎手イヴ・サンマルタンの状況でした。

メドウコートは、ビング・クロスビーら著名人が共同所有するイギリスの強豪。イギリスダービーではシーバードに2馬身差で2着。アイルランドダービーを制し、キングジョージ6世＆クイーンエリザベスステークスでも古馬を破るなど、イギリス最強馬の呼び声高かったです。しかし、セントレジャーステークスでは雨の影響で最悪の馬場状態に苦戦しました。

トムロルフは、アメリカの駐アイルランド大使レイモンド・ゲスト氏の所有馬。アメリカクラシック三冠の一つ、プリークネスステークスを制し、アメリカダービーではレコード勝ちを収めるなど、4連勝で凱旋門賞に挑みました。父は凱旋門賞連覇馬リボー。鞍上にはアメリカのトップジョッキー、ウィリー・シューメーカーを迎えていました。

アニリンは、ソビエトから参戦した異色の存在。ソビエトダービー、ソビエトオークス優勝馬を両親に持ち、国内では無敗を誇りました。社会主義国家大賞を制し、ワシントンDCインターナショナルにも遠征するなど、国際的な経験も積んでいました。

ダイアトムは、ロスチャイルド家の所有馬。シーバード、リライアンスに次ぐフランス勢の3番手評価でしたが、プランスドランジュ賞を制し、僚馬フリーライドと共に凱旋門賞に挑みました。

その他、イタリアのマルコヴィスコンティ、フランスオークス優勝馬ブラブラ、メドウコートと同じ厩舎のラガッツォなど、多くの強豪が出走しました。

レース展開と結果

5万人の観衆が詰めかけたロンシャン競馬場。レースは、イタリアのマルコヴィスコンティがハイペースで飛ばし、アニリン、ブラブラなどが追いかける展開に。シーバード、リライアンス、メドウコート、トムロルフといった有力馬は少し後方に位置していました。

メドウコートは、坂を登り切ったところでシーバードを捉えようと仕掛けますが、シーバードは直線でその強さを爆発させました。アニリンが一時先頭に立ちましたが、シーバードはこれをあっさり交わし、リライアンスも抜き去ります。トムロルフも追い上げますが、届かず。

シーバードは、リライアンスを6馬身という圧倒的な差で突き放し、凱旋門賞の歴史上最大の着差での勝利を収めました。この圧勝劇は、シーバードを「世界最強馬」とする評価を不動のものにしました。

レース後と各馬のその後

シーバードの圧勝は、世界中に衝撃を与えました。関係者からは「本物の名馬」「稀代の名馬」「途方もなく強い馬」など、賛辞が贈られました。タイムフォーム社は、シーバードに史上最高のハンデ145ポンドを付け、その実力を改めて証明しました。

シーバードは凱旋門賞を最後に引退し、種牡馬となりました。リライアンス、ダイアトム、アニリン、トムロルフなども、それぞれの地で活躍を続けました。多くの出走馬は、種牡馬・繁殖牝馬として、その血統を後世に繋いでいきました。

1965年の凱旋門賞は、その豪華なメンバー、シーバードの圧勝劇、そして各馬の後の活躍など、多くの伝説を残した歴史に残るレースでした。

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