篠山線

かつて兵庫県多紀郡（現在の丹波篠山市）内を走り、日本国有鉄道（国鉄）が運営していた鉄道路線が、篠山線（ささやません）です。福知山線の篠山口駅と福住駅の間、17.6キロメートルを結んでいましたが、開業からわずか約28年後の1972年 3月1日に廃止されました。

路線の特徴と運行

篠山線は、軌間1067ミリメートルの単線非電化路線でした。篠山口駅から福住駅までの間に、篠山、八上、丹波日置、村雲の4駅を含む計6駅が設けられていました。列車の運行安全確保には、スタフ閉塞式が採用されており、全線で一つの閉塞区間として扱われていました。

運行本数は、開業当初の1944年 3月21日時点では、篠山口駅 - 篠山駅間で9往復、篠山駅 - 福住駅間で5往復が設定されており、全線所要時間は35分から57分でした。廃止直前の1972年 3月1日時点では、篠山口駅 - 福住駅間を直通する列車が1日6往復運行されていましたが（うち1往復は休日運休）、所要時間は33分から39分と短縮されていました。この路線には貨物専用列車がなく、旅客を乗せた気動車が貨車を牽引する混合列車が運用されていたことも特徴です。

建設の背景と廃止への道のり

篠山線は、太平洋戦争中の1944年に開業しました。建設の主な目的は、丹波地方で産出されるマンガンや硅石といった重要物資の輸送と、海沿いを走る山陽本線の迂回路（バイパス）としての機能でした。改正鉄道敷設法別表では、福知山線の篠山駅（現・篠山口駅）と山陰本線の園部駅を結ぶ計画の一部として位置づけられていました。建設にあたっては、戦時下の資材不足を補うため、1943年に休止された有馬線の資材が転用されています。1944年 3月21日に篠山口駅 - 福住駅間が開業すると同時に、古くから篠山駅と市街地を結んでいた篠山鉄道が廃止されました。しかし、翌1945年に終戦を迎えたことで、福住駅から園部駅への延伸計画は実現することなく中止されました。

戦後は地域輸送を担うことになりますが、本来の延伸計画を見越して篠山町の中心市街地から離れた場所に篠山駅が設置されたため、利用者は伸び悩み、経営状況は厳しさを増しました。1960年代に入ると、国鉄の経営再建策の中で廃止が検討される路線のリストに挙げられ、地域では強い反発と廃止反対運動が起こりました。特に1968年には「赤字83線」の一つとして公表され、「篠山線廃止反対同盟」が組織されるなど、反対運動は活発化しました。

国鉄側も、福知山鉄道管理局が「廃線プロジェクトチーム」を編成し、住民一人ひとりと直接話し合う「大衆説得方式」で理解を求めました。1970年9月には、廃止後の代替措置として、国鉄バスの増便や利便性向上、通勤・通学定期券所有者への補償などが沿線自治体に提示されました。地元では「篠山線廃止反対対策協議会」が結成され、署名運動が続けられましたが、営業成績の悪化は続き、廃止反対運動は次第に廃止条件の改善を求める運動へと変化していきました。

廃止問題は兵庫県に委ねられ、県と国鉄の間で折衝が重ねられました。1971年3月には3者トップ会談が行われ、4月下旬には地元4町から19項目の条件が提示されました。国鉄は6月に最終回答を示し、多紀町を除く沿線町がおおむね同意。遅れて多紀町も同意を確認し、同年8月27日に地元自治体と国鉄の間で、福知山線の複線電化を1980年までに完成させることなどを盛り込んだ覚書が交わされ、廃止への合意が成立しました。そして1972年 3月1日、篠山線はその短い歴史に幕を下ろしました。

廃止後の影響と現在

廃止合意の条件であった福知山線の改良は、国鉄の財政状況悪化の影響もあり遅れが生じました。篠山口駅付近の電化は1986年、篠山口駅までの複線化は国鉄分割民営化後の1997年までずれ込み、旧篠山線沿線の住民は代替交通の面で長らく不便を強いられ、過疎化が進む要因の一つとなった側面もあります。

現在、旧篠山線のルート周辺の交通はバスが担っています。特に、篠山口駅 - 園部駅間を結ぶバス路線（かつての国鉄バス園篠線）は、西日本ジェイアールバスからウイング神姫（篠山口駅 - 福住間）と京阪京都交通（福住 - 園部駅間）に引き継がれ、現在も地域住民の重要な足となっています。

残された記録と記憶

篠山線の廃止に関連する資料は、現在も丹波篠山市に大切に保存されています。廃止当時の国鉄内部文書や、住民向けに作られたパンフレット、地元との合意書などが寄贈されており、丹波篠山市立中央図書館で閲覧することができます（閉架資料のため要申請）。

また、地域では篠山線の記憶を後世に伝える取り組みも行われています。開業70周年を迎えた2014年には、廃線跡に残るコンクリート橋梁跡に、当時のレールと枕木を再利用して線路の一部が再現されました。この場所は「篠山線廃線跡」として表示され、往時を偲ばせています。2016年には、地元の団体が八上駅周辺の廃線跡約1キロにわたって約5000本のプラレールを敷き、お別れ列車を再現するイベントも開催され、多くの参加者が篠山線に思いを馳せました。

短い運行期間ながらも、篠山線は戦時下の政策や地域の課題、そして廃止を巡る複雑な経緯など、日本の近代鉄道史の一断面を映し出しています。廃線から半世紀以上を経た現在も、残された資料や地域の取り組みを通して、その存在が語り継がれています。

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