紀伝道

紀伝道の概要

紀伝道（きでんどう）は、大学寮において歴史、特に中国史を教える専門の学科です。この学科は、後に漢文学を教える文章道（もんじょうどう）と合併し、歴史と漢文学の両方を教授する形に進化しました。正式な学科名称は「紀伝道」とされ、博士の称号は「文章博士」として認定されましたが、通称として「紀伝博士」や「文章道」も使われていました。しかし、名称の成立については異論が存在します。

文章道と紀伝道の初期の設置

初期の大学寮では、儒学を教える明経道が中心で、法令を教える明法道や算術を教える算道が補完的な役割を果たしていました。特に秀才や進士を選考する際には、文学も課題に含まれ、教育課程に組み込まれていたことが明らかになっています。

明経博士から文章博士が新たに設置されたのは728年のことで、その後、生徒たちに文学を教えるために文章生が設けられました。ただし、当時の大学教育は儒学に偏重しており、実際に他の科目が機能していなかったため、文章博士は明経道を補完する役割に過ぎなかったと言われています。

紀伝博士の設置と統合

続いて、文・歴史研究の需要が高まり、文章科を希望する者が増えたことから、808年に紀伝博士が設置されました。この新しい官職には紀伝生や紀伝得業生が付随し、正式に紀伝道が成立しました。教授内容は中国正史や文選に焦点を当てていましたが、やがて文学的要素が重視されるようになりました。

940年代に中国正史が持ち込まれると、その紀伝体スタイルが史学の代名詞となり、紀伝道の重要性が増加しました。

紀伝道の発展と変遷

やがて、紀伝道と文章道の違いは曖昧になり、双方は統合されることになります。834年にはこの統合が正式に行われ、紀伝博士の人数は文章博士に移され、紀伝道と文章博士という現在の名称が確立されました。この時期、文系教育はより貴族社会に求められた能力に焦点を移され、学問の内容が変化しました。

紀伝道のその後

その後、紀伝博士として活動した菅原清公は、教育分野において大きな影響力を持ち、大学寮の発展に寄与しました。紀伝道においては、中国正史、文選、そして特に『日本書紀』に関連する講義が行われるようになり、文科と歴史科の統合が進みました。

紀伝道の衰退

一方で、徐々に紀伝道や文章博士の地位は形式的なものへと移り、特定の貴族家からの世襲が支配的になっていきました。試験制度が形骸化し、秀才試が行われた時期には、試験の質が堕落してしまったため、学問の実質が損なわれてしまいました。

平安時代中期以降、遣唐使の廃止により新たな学問の流入が途絶え、紀伝道の発展が停滞しました。このため、紀伝道および文章博士は長い歴史を持ちながらも、教育機関としての実態が消滅していくこととなります。

まとめ

紀伝道は中国史と漢文学を重視した教育機関として存在しましたが、その変遷を経て、貴族社会に適応しながらも学問の本質が揺らいでいく過程が見受けられました。その結果、社会的構造の変化が教育の方法論や内容に多大な影響を及ぼし、史学そのものの発展を次第に阻害する要因ともなりました。

もう一度検索