細嶋村源太郎

細嶋村 源太郎（ほそじまむら げんたろう）は、生没年不詳ながら、江戸時代初期の越中砺波郡五箇山で重要な役割を担った人物です。苗字は前川と伝わります。加賀藩が五箇山の統治を始めた際、藩は瑞泉寺下梨道場（後の瑞願寺）の五箇山市助を代官（十村）として支配体制を敷きました。初代市助が天正13年（1585年）に任命されて以来、市助家は約100年にわたりこの代官職を世襲します。

転機が訪れたのは慶安4年（1651年）のことです。この年、市助と同等の権限を持つ新たな十村として細嶋村源太郎が任じられました。これにより、五箇山は以後、東西の二地域に分かれて統治される体制が確立することになります。源太郎は五箇山の東側、すなわち小谷と利賀谷からなる「利賀谷組」を担当し、一方の市助は五箇山の西側、赤尾谷・上梨谷・下梨谷を含む「赤尾谷組」を統括しました。

源太郎の十村役就任について、宝暦年間（1751年-1764年）頃に成立したとされる「宅左衛門覚書」には、「四代市助より、五ヶ山の内利賀谷・小谷村役は細嶋村顕太郎（源太郎）に任じられ、両名で五ヶ山の村役を務めた」との記述が見られます。また、それまで市助一人に支給されていた十村の扶持銀1500目が、4代市助と源太郎の間で等しく分割されるようになったことも、両者が同格であったことを示しています。承応3年（1654年）に作成された五箇山紙の値段に関する文書にも、「十村下梨村市助、十村細嶋村源太郎」と並んで署名しており、市助と同格の立場で扱われていたことがうかがえます。

息子の四郎右衛門が残した文書に、享保8年（1723年）時点で82歳である旨の記述があることから逆算すると、源太郎は1620年頃の生まれと推測され、十村役に就いた当時は30歳過ぎであったと考えられます。

源太郎の立場を示す史料として、寛文元年（1661年）付けで城端町肝煎に宛てられた文書の署名欄があります。


十村　下梨村市助
十村　細嶋村源太郎
与頭　小谷　宗右衛門


この署名は、源太郎が五箇山市助と同格の十村役であったことを改めて裏付けるものと言えます。ただし、同じ文書中に五箇山の各地域に置かれた「与合頭（くみあいがしら）」の名が見られる中で、利賀谷の与合頭名がないことから、源太郎が利賀谷の与合頭を兼任しており、市助より格下の「十村加人」のような存在であったとする説も存在しました。これに対し、『利賀村史2 近世編』では、万治2年（1659年）の文書に「与頭（上利賀村）太右衛門」の名が見られることを挙げ、源太郎の与合頭兼任説は成り立たないと指摘しています。同書では、寛文元年付け文書に利賀谷の与合頭が署名していないのは、利賀谷が井波町の商圏であり、城端町との関わりが薄かったためであり、むしろこれは利賀谷組と赤尾谷組の担当区域が明確に区分されていた証拠であると論じています。

加賀藩主との関わりも記録されています。万治3年（1660年）には、5代藩主前田綱紀の婚礼祝賀のため、加賀、能登、越中の三国から選ばれた十村計12名と共に、五箇山は特別な地域として源太郎も江戸へ出向くよう命じられました。同年7月に江戸に到着した源太郎は、祝膳として鶴の料理を振る舞われ、藩主から唯子（打掛の一種か）と白銀を下賜されたと伝えられています。さらに、寛文元年（1661年）7月に前田綱紀が初めて越中に入国した際には、源太郎は息子の四郎右衛門と共に今行動でこれを迎え、金沢まで随行したといいます。

しかし、寛文10年（1670年）に源太郎が十村役を引退した際、その役職は息子には受け継がれず、金屋岩黒村の九左衛門が後任となりました。享保8年（1723年）に源太郎の息子である四郎右衛門が、藩から賜った品々について記した文書が残されています。この文書からは、父である源太郎が江戸に出向いた際の経緯や、その間、四郎右衛門が名代として職務にあたっていたことなどが明らかになっています。

源太郎の子孫は、その後代々の当主が「四郎右衛門」を襲名し、江戸時代末期まで細嶋村の念仏道場において道場坊を務めました。明治維新を迎えると、彼らは前川の姓を名乗るようになります。また、現在細島熊野社に所蔵されている旧御神体は、「十村の四郎右衛門」（実際には父の源太郎を指すとされる）が自らの手で彫ったものだと伝えられています。この旧御神体の背面には「慶安五年九月吉日 源太郎 献仏」との銘があり、源太郎が十村に就任して間もない時期、慶安5年（1652年）に制作されたものであることが分かります。

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