紺屋高尾

紺屋高尾

「紺屋高尾（こんやたかお、こうやたかお）」は、古典落語の演目の一つです。別名として「駄染高尾（だぞめたかお）」や「かめのぞき」とも呼ばれます。この演目は浪曲の演目としても知られており、大正時代には初代篠田実の浪曲レコードが異例の人気を博しました。また、時代劇映画の題材にもなっています。

本稿では、この「紺屋高尾」の類話である「幾代餅」と「搗屋無間」についても解説します。

落語家の桂歌丸が得意とした演目としても知られ、横浜市南区真金町の遊郭で生まれたという背景も持っています。

あらすじ

神田紺屋町の染物屋で働く久蔵は、26歳になっても遊んだことのない真面目な男でした。ある日、友人に連れられて吉原へ行った際、花魁道中で見かけた高尾太夫に一目惚れしてしまいます。しかし、高尾太夫は高位の花魁であり、奉公人の久蔵では相手にされないと知り、恋煩いで寝込んでしまいます。

店の主人である吉兵衛は、金さえあれば高尾太夫に会わせられると久蔵に告げます。久蔵は再び懸命に働き、3年で十両の大金を貯めます。吉兵衛は、遊び人で知られる医者の竹内蘭石に頼み、高尾太夫との座敷を用意してもらうことにします。竹内は快く引き受け、久蔵を金持ちに仕立てて吉原へ連れて行き、高尾太夫との対面を果たさせます。

美しい高尾太夫の姿に感激する久蔵でしたが、吉原のしきたりとして、初対面では顔合わせだけで終わります。次にいつ会えるのかと高尾が尋ねると、久蔵は自分の正体を明かし、3年かけてお金を貯めたため、次に会えるのは3年後だと告げます。これを聞いた高尾は、久蔵が3年も自分のことを思ってくれたことが嬉しいと涙を流し、来年の3月15日に年季が明けるので、その時に妻にして欲しいと申し出ます。久蔵は驚きながらも喜び、この申し出を受け入れます。

久蔵から話を聞いた店の者は誰も信じませんでしたが、約束の3月15日になると、本当に高尾太夫がやってきます。二人は祝言を挙げて夫婦となり、吉兵衛は久蔵に店を譲ります。店を継いだ二人が売り出した早染めの手拭いは江戸っ子たちに人気となり、店は大繁盛します。

サゲのバリエーション

この噺の基本的なサゲは、浅黄色の早染めがなぜ「かめのぞき」と呼ばれるのかというものです。その理由は、高尾太夫を一目見ようと多くの客が押し寄せましたが、肝心の高尾太夫は染め作業のために藍瓶に跨り下を向いているため、顔が見えません。そこで、藍瓶の水面に映る高尾太夫の顔を見ようとして瓶の中を覗いたため、「瓶覗き（かめのぞき）」と呼ばれるようになったというものです。

しかし、本来のサゲは、作業のために瓶に跨った高尾太夫の性器が水面に映ってはいないかと、客たちが瓶の中を覗いたという、やや下品な内容でした。

また、最後に「傾城に　誠なしとは誰（た）が言うた？」と述べて、「これが紺屋高尾の由来話」として話を終える場合もあります。

映画化

この物語は、これまでに4度映画化されています。

1927年/1928年：勝見正義監督、勝見庸太郎主演（勝見庸太郎プロダクション製作）
1928年：山下秀一監督、嵐珏蔵主演（帝国キネマ演芸製作）
1935年：志波西果監督、上田吉二郎主演（太秦発声映画製作）
1952年：佐々木康監督、花菱アチャコ主演、三門博が語り（東映京都撮影所製作）

舞台

松竹新喜劇では『紺屋と高尾』という演目が上演されており、一龍斎貞丈（五代目）が口演し、平戸敬二が脚本を担当しました。

歌

真木柚布子が歌う『紺屋高尾』という楽曲も存在します。作詞は久仁京介、作曲は弦哲也、編曲は前田俊明が担当し、2018年11月21日にキングレコードから発売されました。

幾代餅

「幾代餅（いくよもち）」も古典落語の演目で、「紺屋高尾」とほぼ同じ筋を持っています。東大落語会によると、サゲはないとされています。

あらすじ（幾代餅）

馬喰町の搗き米屋に勤める清蔵は、吉原の幾代太夫を描いた錦絵を見て恋煩いで寝込んでしまいます。見かねた主人は、金を貯めれば会わせてやると約束します。以降は「紺屋高尾」と同じ筋で、幾代太夫の年季明けで二人は夫婦になります。そして、餅屋を開くと、元花魁の美人女房と、その名を冠した「幾代餅」で店はたちまち人気となり繁盛します。

搗屋無間

「搗屋無間（つきやむげん）」は、古典落語の演目の一つです。別名として「搗屋問答（つきやもんどう）」や「無間の臼（むけんのうす）」とも呼ばれます。

この演目は、前半の筋が「幾代餅」とほぼ同じですが、後半部分で展開が異なります。題にもある「搗屋（つきや）」とは、米つき（精米業）を営む店のことです。

あらすじ（搗屋無間）

信濃屋という米屋に長年勤めている搗屋の徳兵衛は、吉原の稲本にいる小稲という遊女の絵を見て恋煩いで寝込んでしまいます。野幇間を通して、金さえ用意すれば小稲に会えると聞いた徳兵衛は、主人に預けている金で相殺すれば良いとして、金を用意して吉原へ向かい小稲を買い求めます。思いのほか小稲に夢中になってしまいますが、もはやお金はありません。

ある日、手水鉢を使おうとすると隣家から花唄が聞こえ、浄瑠璃の演目で、曹洞宗観音寺の「無間の鐘」の逸話を思い出します。これは死後は無間地獄に落ちる代わりに、現世で300両の大金を得るというものでした。そこで、せめて30両は欲しいと柄杓で手水鉢を叩こうとすると、それが欄間に当たって、そこに隠されていた小判がバラバラと落ちてきます。願いが叶ったと数えてみると24両しかありませんでした。しばらく考えた後、答えに気づきます。「そうか、二割は搗き減りか」と。

別版（搗屋無間）

基本的な筋は同じです。搗屋の徳兵衛は松葉屋の丸山という花魁を描いた錦絵を見て恋煩いで寝込んでしまいます。主人は幇間を通して理由を知り、徳兵衛を金持ちに見せかけ、丸山に会わせる手はずを整えます。徳兵衛はそれまでの滅私奉公で15両の貯金があり、それを使うことになります。

徳兵衛は丸山と一晩過ごし、最後にすべてを明かして嘘を詫びます。それにほだされた丸山は、自分が金を出すので、これからも会いに来てほしいと申し出て、二人は逢引を重ねるようになります。

ところが、早々に丸山に真夫（まぶ、花魁が夫同然に愛している者）ができたという噂が立ち、彼女の客足は途絶え、お金が無くなってしまい、二人は会えなくなります。彼女に会いたい徳兵衛は、浄瑠璃の演目で、曹洞宗観音寺の「無間の鐘」の逸話を思い出します。しかし死後のことなど気にせず、徳兵衛は商売道具の杵で鐘を叩き続け、願いが通じて鐘の中から小判が落ちてきます。喜んだ徳兵衛でしたが、数えてみると270両で、浄瑠璃の逸話より1割足りません。しばらく考えた後、答えに気づきます。「そうか、一割は搗き減りか」と。

エピソード

1940年（昭和15年）9月20日、警視庁は内容が卑俗的で低級であるとして、「搗屋無間」を含む53演目を上演禁止（禁演落語）としました。

善光寺の伝承

長野市の善光寺には、「紺屋高尾」の高尾太夫を供養する「高尾灯籠」があります。この灯籠は三浦屋が寄進したと伝えられています。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連項目

類話で、出だしが同じ落語の演目

崇徳院 (落語)
千両蜜柑
* 擬宝珠 (落語)

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