統一アイルランド党

統一アイルランド党（Fine Gael）

統一アイルランド党（愛: Fine Gael）は、アイルランドの主要な政党の一つであり、その歴史はアイルランドの政治と社会の変遷を色濃く反映しています。「Fine Gael」はゲール語で「ゲール人の家族」を意味し、その名の通り、アイルランドの伝統と文化を尊重する姿勢を示しています。一般的には、フィナ・ゲール、またはフィネ・ゲールとも呼ばれます。

党の概要

統一アイルランド党は、自由主義保守を掲げる中道右派の政党として知られています。2020年の総選挙では第3党となりましたが、欧州議会では最大の議席数を誇ります。党員数は2017年には21,000人に達しており、アイルランド国内で大きな影響力を持つ政党です。

現在の党首はサイモン・ハリスで、2024年にレオ・バラッカーの後任として就任しました。バラッカーは2017年から2024年まで党首を務め、首相も兼任しました。前党首のエンダ・ケニーは2002年から2017年まで党首を務め、2011年から2017年まで首相を務めました。

党のルーツは、1933年にクマン・ナ・ゲール、ナショナルセンター党、ナショナルガードという3つの政党が合併したことにあります。これらの政党は、アイルランド独立戦争後の英愛条約を支持した勢力に起源を持ち、特にマイケル・コリンズは創始者として尊敬されています。

統一アイルランド党は、経済政策においては共和党よりも自由主義を支持しており、社会政策においては、労働党などの社会民主主義政党と連立を組むことが一般的です。党は自らを「進歩的中心の党」と位置づけ、「ドグマやイデオロギーにとらわれず、アイルランドにとって正しい道を選ぶ」ことを目指しています。中核的価値として、機会均等、資本主義、安全性、誠実さ、希望を掲げています。

国際政治においては、欧州連合（EU）を強く支持しており、イギリスとの関係強化やアイルランド共和主義の物理的な強制には反対する立場をとっています。青年組織として「青年統一アイルランド党」があり、約4,000人の党員が所属しています。また、統一アイルランド党は欧州人民党の創設メンバーでもあります。

現在、統一アイルランド党は、伝統的なライバルである共和党や緑の党と連立政権を組んでおり、レオ・バラッカーが副首相を務めています。これは、アイルランド政治における歴史的な転換点と見なされています。

党史

統一アイルランド党の歴史は、アイルランドの社会の変化と密接に結びついています。以下に、重要な出来事を時系列でまとめます。

1930年代～1950年代:
1933年：クマン・ナ・ゲール、国民中央党、国民防衛軍の合併により結成。
1937年：共和党が提案した新憲法の採択に反対するも、国民投票で採択。
1948年～1951年：アイルランド初の連立政権に参加。
1954年～1957年：労働党などとの連立政権を形成。
1959年：比例代表制廃止に反対し、国民投票で否決。
1960年代～1970年代:
1968年：憲法改正案に反対、国民投票で否決。
1972年：欧州共同体（EC）加盟国民投票で賛成、承認。
1973年：投票年齢の引き下げとカトリック教会の特別地位の削除を支持し、承認。
1973年～1977年：労働党との連立政権に参加。
1979年：養子縁組と上院の投票権拡大を支持、国民投票で承認。
1980年代:
1981年～1982年：労働党との少数派連立政権に参加。
1982年～1987年：労働党との連立政権に参加。
1982年：修正第8条（中絶禁止）の国民投票で賛否が分かれる。
1984年：投票権拡大を支持、承認。
1986年：離婚の合法化に賛成するも、国民投票で否決。
1987年：単一欧州議定書の批准を支持、承認。
1990年代:
1992年：マーストリヒト条約の批准を支持、承認。
1994年～1997年：労働党などとの連立政権に参加。
1995年～1997年：離婚合法化、裁判所の保釈拒否権、内閣の機密事項に関する憲法改正を支持、承認。
1998年～1999年：アムステルダム条約、ベルファスト合意、地方政府に関する憲法改正を支持、承認。
2000年代:
2001年～2004年：死刑廃止、国際刑事裁判所規約、ニース条約の批准を支持。中絶禁止の強化には反対。
2002年：エンダ・ケニーが党首に就任。
2004年：アイルランド国籍の出生地主義廃止を支持、承認。
2008年：リスボン条約の批准を支持するも、国民投票で否決、2009年に再度支持し承認。
2010年代:
2011年：総選挙で第一党となり、労働党との連立政権を樹立。エンダ・ケニーが首相に就任。
2016年：総選挙で議席数を減らすも第一党を維持。労働党との連立を解消。エンダ・ケニー辞任。
2017年：レオ・バラッカーが党首、首相に就任。
2020年代:
2020年：総選挙で第3党に後退。共和党、緑の党との連立政権に参加。
2024年：総選挙で議席を微増させるも、第3党。サイモン・ハリスが党首に就任。

思想と政策

統一アイルランド党は、中道右派の政党として、自由保守主義、キリスト教民主主義、自由主義、保守主義、親欧州連合の立場を取っています。文化保守主義と経済的自由主義を組み合わせた思想的基盤を持っています。

社会政策:

1960年代には「公正な社会」政策声明を発表し、社会正義と平等を重視する姿勢を示しました。LGBT+の権利に関しては、2003年から同性カップルのシビル・ユニオンを支持し、2015年には同性婚を合法化する国民投票を支持しました。中絶問題では、複雑な立場を取り、初期には中絶禁止を支持しましたが、その後は女性の権利を重視する立場に転換しました。

経済政策:

経済的な自由主義を支持しており、政府の干渉を最小限に抑えることを目指しています。企業政策を重視し、低税率を支持する一方で、インフラ投資や公共部門の効率化も推進しています。アイルランドの経済危機時には、新自由主義的なアプローチを支持し、財政の安定化と経済成長を重視しました。

憲法改正:

立憲政党として、アイルランドの制度的な機関を尊重し、憲法改正にも積極的に関与してきました。議会の効率化や上院の廃止などを提案し、よりダイナミックで応答性の高い政治体制を目指しています。

健康政策:

医療制度改革を推進し、公的医療保険制度の導入を主張しています。費用対効果の高い医療サービスを提供することを目指し、民間の医療保険制度との決別を提唱しています。

親欧州主義:

欧州統合を強く支持し、欧州憲法やリスボン条約を支持しています。欧州共同防衛への参加も提唱し、アイルランドの非同盟政策を見直す可能性も示唆しています。

欧州系列

統一アイルランド党は、欧州人民党（EPP）の創設メンバーであり、欧州の主要な中道右派政党と連携しています。欧州議会議員や欧州評議会議員会議、地域委員会でも欧州人民党グループに所属しています。

党首一覧

オーエン・オダフィ （1933年 – 1934年）
ウィリアム・コスグレイヴ （1934年 – 1944年）
リチャード・マルケイ （1944年 – 1959年）
ジェームス・ディロン（1959年 – 1965年）
リーアム・コスグレイヴ （1965年 – 1977年）
ギャレット・フィッツジェラルド （1977年 – 1987年）
アラン・デュークス （1987年 – 1990年）
ジョン・ブルートン （1990年 – 2001年）
マイケル・ヌーナン （2001年 – 2002年）
エンダ・ケニー （2002年 – 2017年）
レオ・バラッカー （2017年 – 2024年）
サイモン・ハリス (2024年 - 現職)

統一アイルランド党は、アイルランドの政治において重要な役割を果たしており、今後もその動向が注目されます。

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