絶海中津

絶海中津：五山文学を彩る禅僧と詩人

絶海中津（1334-1405）は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した臨済宗の僧侶であり、優れた漢詩人としても知られています。土佐国津野の豪族の出身で、義堂周信と同郷という縁もあります。青年期には夢窓疎石に師事し、その後、建仁寺や建長寺などで修行を積みました。

明への渡航と高僧との交流

応安元年（1368年）、絶海は明国へ渡航します。杭州の中天竺寺などで修行し、用貞輔良などの高僧と交流を深めました。この渡航は、当時の日本における政治家や武将からの評価を高めることに繋がったと考えられています。明の太祖、洪武帝との謁見を果たした記録も残っており、洪武帝との間で詩の唱和を行ったエピソードは有名です。この出来事は、日明両国における徐福伝説の広がりを示す重要な史料となっています。

絶海は明で、当時中国禅宗界で勢力を伸ばしていた大慧派の僧侶たちとも親交を結びました。特に、季潭宗泐には師事し、帰国後もその法脈を受け継いでいます。「絶海」という道号も季潭による命名です。大慧派との交流は、日本の五山文学における四六文の流行に影響を与えたとされています。

足利義満との関わりと激動の時代

帰国後の絶海は、天竜寺や建仁寺などで活動した後、播磨守護・赤松則祐の招きを辞退し、甲斐慧林寺に赴任します。その後、足利義満から上洛を命じられ、鹿苑院の住持となりますが、義満との対立から摂津へ退去、有馬温泉に逃れるなど、動乱の時代を反映した波乱万丈な生涯を送りました。

義満との関係は複雑で、対立と和解を繰り返しながらも、絶海は義満や足利義持といった将軍、有力守護大名、さらには朝廷からも帰依を集める存在でした。応永の乱では、義満の命を受けて大内義弘への説得に向かうなど、政治的な局面でも重要な役割を果たしています。

五山文学への貢献と評価

絶海は、明で学んだ四六文の技法を日本に伝え、五山禅林に広めた功績があります。後小松天皇や称光天皇からも帰依を受け、死後にはそれぞれ仏智広照国師、聖国師の称号を贈られています。

絶海中津は、義堂周信と共に「五山文学の双璧」と称えられてきましたが、近年では詩風の高さから義堂を凌駕する評価を得ており、五山文学のみならず、中世文芸史における頂点に位置付けられるようになりました。彼の詩文集『蕉堅藁』や『絶海和尚語録』は、現在も重要な史料として研究されています。弟子には用剛乾治、西胤俊承らがいます。

絶海中津の生涯は、単なる禅僧の枠を超え、激動の時代を生き抜き、文化・政治両面に大きな足跡を残した人物であったと言えるでしょう。彼の詩文は、中世日本の精神文化を深く理解する上で欠かせないものです。

参考文献

『絶海語録』 梶谷宗忍訳注、思文閣出版（1・2）、1976年
寺田透 『義堂周信　絶海中津　日本詩人選24』 筑摩書房、1977年
玉村竹二訳注 『日本の禅語録 第八巻　五山詩僧』 講談社、1978年
入矢義高校注 『五山文学集』 ＜新日本古典文学大系48＞岩波書店、1990年
* 安良岡康作 『中世文芸史における五山文学』 ＜新日本古典文学大系月報18＞岩波書店、1990年

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