縦横家

縦横家：戦国時代の外交戦略家たち

戦国時代、中国において活躍した縦横家は、諸侯を相手に巧みな外交戦略を駆使した策士集団でした。彼らは、自らの高い地位獲得を目的とし、弁舌によって諸侯を自由に操り、各国間を奔走しました。その行動様式は、現代で言うところの外交官やロビイストの先駆けと言えるでしょう。

縦横家の最も有名な人物として、蘇秦と張儀が挙げられます。蘇秦は合従策、張儀は連衡策をそれぞれ唱導し、戦国時代の国際政治に大きな影響を与えました。蘇秦は、その卓越した弁才によって六ヶ国の宰相を同時に務めたという伝説も残っています。

「縦」と「横」は、彼らの用いた外交戦略を象徴する言葉です。「縦」は、秦以外の諸国が連合して秦に対抗する合従策を、「横」は、秦と他の諸国が同盟を結ぶ連衡策を表しています。これらの策は、地理的な配置に基づいて名付けられました。秦以外の諸侯国が南北に連なっている状態を「縦」、秦とそれ以外の国が東西に位置している状態を「横」と捉えたのです。

他の諸子百家と異なる点は、縦横家が明確な思想体系を持たなかったことです。儒家や墨家など、他の思想家はそれぞれの理想の実現を目指しましたが、縦横家はそれぞれの国の状況に応じて、都合の良い政策を提案しました。蘇秦自身も、燕で合従策を唱える前に、秦で東進戦略を説いたという逸話が残されています。これは、彼らが特定のイデオロギーに固執せず、状況に応じて柔軟に戦略を切り替えたことを示しています。

主要な縦横家:

蘇秦: 合従策の提唱者として有名。六国をまとめ、秦の東進を15年間食い止めたとされる。
張儀: 連衡策の提唱者。秦の利益を優先した外交戦略で知られる。
鬼谷子: 縦横家の祖とされる人物。多くの弟子を育てたが、その実像は謎に包まれている。
蘇代: 蘇秦の弟。兄と同様に外交活動に従事した。
陳軫: 「蛇足」の故事で知られる。巧みな弁舌で知られた。
公孫衍: 多くの諸侯国を遊説した。
龐煖: 戦国七雄の一角である魏の武将でありながら、縦横家の思想にも通じていたとされる。

文献:

縦横家の書物は、多くが失われてしまっています。『鬼谷子』を除き、彼らの著作はほとんどが現存していません。『史記』や『戦国策』といった歴史書の中に、彼らの活動が断片的に記録されているのみでした。しかし、1970年代には馬王堆漢墓から『戦国縦横家書』が、2021年には鄭家湖墓地から『賤臣筡西問秦王』が出土するなど、近年になって新たな資料が発見され、縦横家の研究が進んでいます。

『漢書』芸文志には、多くの縦横家の著作が挙げられていますが、これらは全て散逸しています。具体的な書名としては、『蘇子』『張子』『龐煖』『闕子』などがあります。これらの書物の内容を知る手がかりは、現存するわずかな史料に頼るしかありません。

関連文献:

『鬼谷子』：一般に偽書とされているが、縦横家の思想に影響を与えたと考えられる。
『戦国策』：戦国時代の縦横家の活動を描いた歴史書。
『史記』：司馬遷が著した歴史書。縦横家の伝記も収録されている。

縦横家の活動は、戦国時代の国際政治を理解する上で非常に重要です。彼らの巧みな外交術、そして散逸した文献群は、現代においても歴史研究者の興味を惹きつけ続けています。今後も新たな発見によって、縦横家の実像がより明らかになることが期待されます。

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