羅刹天

羅刹天の概要

羅刹天（らせつてん）は、仏教の天部に位置付けられた神で、特に十二天の一つとして知られています。この存在は西南を守護する護法善神であり、同時に「羅刹」とも呼ばれます。サンスクリット語の「Rākṣasa」に由来し、羅刹そのものは鬼神の総称であることが多く、さまざまな鬼神や魔物と関わりがあります。たとえば、羅刹鬼（らせつき）や速疾鬼（そくしつき）などの吉凶を司る神々がこれに含まれます。

羅刹天は別名「涅哩底王」（Nirrti-raja）と呼ばれることもあり、これは破壊や滅亡に関与する神を指します。地獄の獄卒としての側面も持つため、時には恐れられる存在でもあります。また、四天王の一人である多聞天（毘沙門天）に仕える役割も果たしています。これはヒンドゥー教に登場する鬼神ラークシャサの影響を受けたもので、仏教の教えに取り入れられました。

起源と神話

羅刹の起源は、インドのアーリア人に先立つ時代から存在する木石水界の精霊に起因していると考えられています。ヴェーダ神話では、羅刹は財宝の神：クヴェーラ（毘沙門天）を王とし、南方の島・ランカー島（現在のスリランカ）を拠点にしていました。この地は神々の神話においても重要な役割を果たし、『ラーマーヤナ』ではクヴェーラの異母弟であるラーヴァナが島の覇権を手にし、文中では神々に対抗する姿が描かれていますが、最終的にはコーサラ国の王子ラーマに敗北します。

バラモン・ヒンドゥー教では、羅刹は通常、人々を惑わせ、捕まえる魔物として描かれる傾向があります。仏教が広がると、羅刹は夜叉と同様に毘沙門天の眷属として仏法を保護する役目を担うことになります。このようにして、羅刹天は仏教の空間において、悪を除去する存在としての機能を果たしていきます。

羅刹天の姿

羅刹天は、十二天の中で特に西南を守る役割を担っています。彼が持つ武器——剣によって煩悩を断ち切るとされており、その姿は鎧をまとい、左手で剣印を結び、右手に刀を持っています。全身が黒く、髪の毛だけは赤いという特徴的な姿で描かれることが一般的です。

羅刹の性格

中国からは、彼は通常、恐ろしい魔物であるというイメージが強く、地獄の獄卒と同一視されがちです。特に10世紀の延暦寺の僧、源信著の『往生要集』においては、羅刹は亡者を責め立てる存在として恐れられています。

羅刹の男性は見た目が醜いとされ、反対に女性は美しいと見なされます。男性のことは羅刹娑（らせつしゃ）や羅刹婆（ラークシャサ）と呼び、女性は羅刹斯（らせつし）や羅刹女（らせつにょ）と呼ばれます。法華経の陀羅尼品には十羅刹女が語られていますが、他にも十大羅刹女や八大羅刹女、十二大羅刹女に関する言及もあります。さらに、孔雀経には72の羅刹女の名称も記載されています。

羅刹天が登場する文学作品

羅刹天が登場する著名な文学作品には『ラーマーヤナ』や『西遊記』があります。『ラーマーヤナ』では、主人公ラーヴァナが率いる羅刹の民が描かれ、敵としての立場に立っています。『西遊記』では、悪役の一人として羅刹女が登場します。また、近代の中国においても、羅刹は長寿で死ぬこともあると伝えられ、物語『聶小倩』では、羅刹の骨の一片でも心臓を切り取られてしまうと、致命的な影響を与えるとされています。

まとめ

羅刹天は、仏教において象徴的な役割を果たしていますが、その背景には豊かな神話と歴史が隠されています。悪を防ぎ、仏法を守護する存在として、彼の姿と役割は多様な解釈と共に受け継がれてきました。

もう一度検索