羊祜

羊祜（よう こ）

羊祜（よう こ、221年 - 278年）は、中国三国時代から西晋にかけて活躍した武将です。字は叔子（しゅくし）。泰山郡南城県（現在の山東省新泰市）出身の名門、羊氏の一族に生まれました。司馬師の妻である羊徽瑜は同母姉にあたります。

生涯

羊祜は、幼い頃から聡明で、その才能は周囲から高く評価されていました。曹爽による招聘を断り、後に司馬昭からも同様に誘いを受けましたが、これも固辞しました。しかし、皇帝の勅命には逆らえず、最終的に仕官の道を選び、中書侍郎、給事中、黄門郎といった要職を歴任しました。魏の曹髦が文芸を好んだため、羊祜は詩賦を献上しました。

司馬炎（武帝）が即位すると、王沈、荀勗、裴秀、賈充らと共に晋の成立に貢献しました。その後、中軍将軍・散騎常侍となり、南城郡侯に封じられました。呉の討伐を主張した羊祜は、都督荊州諸軍事に任命され、漢水の周辺地域において民を慰撫し、呉からの降伏者に対し寛大な措置を講じることで人心掌握に努めました。また、800頃以上の土地を開墾し、農業生産の向上を図るなど、内政面でも大きな功績を残しました。しかし、呉の度重なる侵攻に対しては、計略を巡らせて呉の石城の鎮守軍を撤退させるなど、軍事的な手腕も発揮しました。

272年、呉の西陵督であった歩闡が降伏した際、羊祜は西陵へ進軍しましたが、呉の名将、陸抗の前に敗れ、歩闡は討たれてしまいました。帰国後、羊祜は平南将軍に降格されましたが、その後も漢水周辺の経営に尽力し、新たな城を築いて晋の勢力拡大に貢献しました。呉との紛争を避け、徳による政治を行ったため、呉からの帰順者が相次ぎました。羊祜は呉の武将たちにも配慮し、投降しやすい環境を整え、捕虜にした呉の将軍を丁重に送り返すなど、礼を尽くしたため、呉の人々からも「羊公」と呼ばれ、敬慕されました。

征南大将軍・儀同三司に任じられた羊祜は、呉討伐の準備を進め、王濬に命じて船を建造させました。司馬炎に呉討伐を上奏しましたが、朝廷の反対により実現しませんでした。その後、病に倒れ、後任に杜預を推挙し、278年に亡くなりました。

羊祜の死は、晋だけでなく呉の人々からも惜しまれました。清廉な人柄で、俸禄を九族や軍士に分け与え、私財を残さなかった羊祜は、遺言で南城郡侯印を棺に入れることを望まず、先祖の墓地に葬るように命じました。司馬炎は羊祜の遺志を尊重しつつも、太傅・鉅平県侯を追贈し、手厚く葬りました。

羊公碑（堕涙碑）

羊祜は生前、襄陽の峴山（げんざん）を好んで訪れ、景色を眺めていたといいます。羊祜の死後、襄陽の人々は彼の遺徳を偲び、峴山に「羊公碑」を建立しました。この碑文を読んだ人々は、羊祜を偲んで涙を流したため、杜預によって「堕涙碑（だるいひ）」と呼ばれるようになりました。

陸抗との交誼

呉の名将、陸抗とは敵対関係にありましたが、互いの才能を認め合い、私的な交流もありました。陸抗が病に倒れた際には、羊祜が薬を贈り、陸抗もそれを服用しました。後に陸抗が返礼として酒を贈ると、羊祜も毒見をせずに飲み干したと言われています。この逸話から、政治的な先入観にとらわれない私的な交誼を表す「羊陸之交（ようりくのまじわり）」という成語が生まれました。

逸話

羊祜は幼い頃から神童として知られていました。5歳の時、乳母に金の輪を持ってきてほしいと頼みましたが、乳母が持っていないと言うと、隣家の桑の木から金の輪を見つけ出しました。それは隣家の主人が亡くした息子のものであり、人々は羊祜の不思議な力に驚嘆したと言います。

15歳で父を亡くした羊祜は、伯母である蔡氏に養育され、孝行息子として知られました。蔡氏は羊祜を「顔回（孔子の弟子）のようだ。成長すれば諸葛孔明にも次ぐ人間になるだろう」と評しました。敵将であった陸抗も、羊祜の徳のある人柄と器量を称賛し、「楽毅や諸葛亮も彼以上ではあるまい」と評しました。

唐代には、武廟六十四将の一人に選ばれています。

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