顔回:孔子の高弟にして、質素な生活を送った聖人
顔回(がんかい、紀元前521年~紀元前490年頃)は、
孔子の弟子の中でも特に優れた才能を持つ人物として知られています。尊称は顔子、
諱は回、
字は子淵(しえん)といい、顔淵(がんえん)とも呼ばれます。後世の
儒教では、四聖の一人「復聖」として崇敬されています。
魯(ろ)の出身である顔回は、孔門十哲の一人にも数えられ、
孔子の将来を嘱望されたほどの秀才でした。しかしながら、
孔子の死の前に若くして亡くなったことは、
孔子にとって大きな悲しみとなりました。
質素な生活と孔子の教えへの深い理解
顔回は、名誉や富を求めることなく、ひたすら
孔子の教えを理解し、実践することに生涯を捧げました。その生活ぶりは極めて質素で、わずかな食事と狭い住居で満足していたと伝えられています。この質素な生活ぶりは、しばしば
老荘思想と結び付けて語られることもあります。
『
論語』雍也篇などには、顔回が「箪食瓢飲(たんしょくひょういん)」、「一箪の食一瓢の飲」と表現されるような、質素な食事を摂り、「在陋巷(ざいろうこう)」と表現されるような、狭くてみすぼらしい町に住んでいた様子が記されています。
孔子からの高い評価と早すぎる死
『
論語』には、顔回に対する
孔子の賛辞が複数見られます。
孔子は「顔回ほど学を好む者を聞いたことがない」と述べており、同門の秀才である子貢は、「私は一を聞いて二を知る者だが、顔回は一を聞いて十を知る者だ」と、顔回の高い学習能力を評しています。
孔子自身、顔回を後継者として見ていたともいわれ、顔回の早世は
孔子に大きなショックを与えました。「ああ、天われをほろぼせり」と、
孔子は嘆いたと伝えられています。
『
論語』先進第十一には、顔回に関する記述が多く見られ、特に顔回が亡くなったことを伝える箇所が繰り返し登場することからも、
孔子が顔回を高く評価していたことがわかります。
また、『
史記』仲尼弟子列伝第七では、顔回は「怒りを遷さず、過ちをふたたびせず」と
孔子に評されていると記されています。さらに、29歳で白髪になったという逸話も残されています。
様々な文献における顔回
『呂氏春秋』、『
荀子』、『
韓詩外伝』、『新序』など、様々な文献にも顔回が登場します。例えば、『呂氏春秋』には「陳蔡之厄(ちんさいのやく)」の際の顔回の行動に関する記述が見られます。
名前の由来と道家との関連
『説文解
字』によると、「淵」という漢
字には「回水」(滞留する水)という意味があるため、顔回の
諱と
字は対応していると考えられています。
顔回の質素な生活ぶりなどから、道家思想と結びつけて解釈されることも多くあります。『
論語集解』では、顔回を道家の人物のように解釈する記述も見られます。
『荘子』では、
孔子と顔回の会話が描かれており、その中で儒家思想を否定し、道家思想を肯定するような描写もあります。
郭沫若は、荘子が
儒家八派の一派「顔氏之儒」出身の人物ではないかと推測しています。
20世紀末には、顔回が登場する新たな文献が発見されており、その内容から荘子の後学の著作とする推測もあるものもあります。
後世における顔回
後漢代以降、顔回は
釈奠において
孔子に従祀され、後世では四聖の一人「復聖」として崇敬されています。
山東省曲阜市には、顔回を祀る
廟(顔
廟、復聖
廟とも)があります。
宋明理学においても、顔回は高く評価され、その思想は様々な形で受け継がれてきました。日本の茶道においても、
千利休が質素を重んじる
わび茶の精神から、
茶道具に『顔回』の銘を与えたことは有名です。
顔回は、その生涯を通して
孔子の教えを実践し、質素な生活を送った人物として、後世に大きな影響を与え続けています。彼の生き方は、現代社会においても、改めて学ぶべき多くの点を含んでいると言えるでしょう。