美泉定山

美泉定山（みいずみ じょうざん）

美泉定山（1805年 - 1877年）は、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した僧侶です。備前国（現在の岡山県）に生まれ、修行の後、蝦夷地（北海道）に渡り、布教活動を行うとともに、現在の定山渓温泉を発見・開発しました。彼の功績は、札幌市南区の定山渓という地名にその名を残し、地域発展の礎となっています。

生涯

文化2年（1805年）、美泉定山は備前国の名刹、妙音寺の次男として誕生しました。17歳で実家を出て修行を積み、その後、北上して秋田県で布教活動に従事しました。

蝦夷地へ

嘉永6年（1853年）、定山は蝦夷地（現在の北海道）に渡ります。慶応2年（1866年）には、張碓（はりうす）から二人のアイヌ民族の案内で内陸に入り、温泉を発見しました。これが現在の定山渓温泉の源泉であり、後に湯治場が設けられました。この源泉は、アイヌの人々が以前から知っており、定山を案内する以前には、幕末の探検家・松浦武四郎も訪れており、彼の紀行文にも安政5年（1858年）に記述されています。定山はまた、この地に定山寺を開いています。

定山渓命名の由来

明治4年（1871年）、有珠新道（本願寺道路）の検分に訪れた参議の副島種臣と開拓長官の東久世通禧は、定山の湯守としての活動を称賛し、この地の渓谷を「常山渓」と命名しました。明治8年（1875年）の太政官布告（平民苗字必称義務令）の際、常山は姓を美泉、名を定山と改めたことから、表記も「定山渓」となりました。

平岸街道の整備と地域との交流

明治時代に入り、青森以南からの入植者が増加する中、定山は地域社会との交流を深めます。特に、仙台での修行経験から水沢伊達家の旧臣に心を寄せていたとされ、麻畑村（現・平岸）に入植した旧伊達家臣団との交流を通じて、札幌と結ぶ平岸街道の整備に尽力しました。また、中目文平という人物から妻となる女性を紹介され、親交を深めたと伝えられています。開拓使の判官、岩村通俊は、定山の先導で整備された平岸街道を通って定山渓を訪れ、その人柄を見込んで定山を公式に「湯守り」に任じました。定山は現在の月見橋付近に浴場を開き、管理に当たったとされています。

平岸街道は、本願寺道路と平岸村で連結され、伊達と札幌を結ぶ重要な交通路となりました。東久世通禧は、この開通を視察した際、定山の温泉地開発の功績をたたえ、「常山渓」（後の定山渓）と命名しました。

小樽・定山渓を結ぶ道路開削への挑戦と晩年

平岸街道整備から5年後の明治9年（1876年）、72歳になった定山は、来道当初の本拠地であり交易港のある小樽から定山渓へ至る道の開削に着手しました。測量を行いましたが、資金不足のため開通には至りませんでした。明治10年（1877年）、定山は湯守の詰所から姿を消し、張碓の山中で病没したと伝えられていますが、その知らせは定山渓には届かず、長らく行方不明扱いとなっていました。定山の過去帳は1979年に小樽市の正法寺で発見され、死去の経緯が明らかになり、法要が営まれました。

定山が果たせなかった小樽と定山渓を結ぶ陸路の整備は、石狩川と豊平川を介する水上交通に押されながらも、明治40年（1907年）に函館から札幌へ至る旧国道42号の一部区間を小樽経由に変更することで実現しました。その後、昭和7年（1932年）には北海道道が朝里川温泉と定山渓を結び、所要時間が短縮されました。札幌オリンピックを控えた1972年には札幌自動車道が開通し、1974年には定山渓ダムが設けられ、一部区間が付け替えられました。平成元年（1989年）には、ダム湖を跨ぐ有料道路が開通し、小樽と定山渓間の所要時間は約1時間となり、観光客にとってアクセスしやすい観光地となりました。

美泉定山の生涯は、備前国から北海道へ渡り、布教活動と温泉開発を通じて地域社会に貢献した僧侶の物語です。彼の名に由来する定山渓は、現在も多くの観光客が訪れる温泉地として、その遺志を伝えています。

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