美濃国分寺

美濃国分寺：古代からの歴史を伝える寺院

美濃国分寺は、岐阜県大垣市青野町に位置する高野山真言宗の寺院です。金銀山という山号を持ち、本尊には薬師如来が祀られています。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の勅命によって日本各地に建立された国分寺の一つ、美濃国分僧寺の後継寺院にあたります。この記事では、現存する国分寺だけでなく、その前身である古代の美濃国分寺跡（国の史跡）と、美濃国分尼寺跡についても詳しく解説します。

概要

美濃国分寺は、大垣市街から西へ向かった国分寺山の南東麓に位置しています。この地は、古代から政治的・文化的中心地として重要な役割を果たしてきました。国分寺は、聖武天皇の命により創建された国分寺の法灯を受け継ぐ寺院であり、古代の国分寺は現在の国分寺の南側に広がっていました。古代の国分寺は887年に焼失しましたが、その後再建され、12世紀末頃には衰退したとされています。1615年、土中から薬師如来像が発見されたことを機に、現在の国分寺が再興されました。周辺には、美濃国分尼寺跡や美濃国府跡、昼飯大塚古墳などの遺跡があり、この地域が古代から重要な場所であったことを物語っています。

古代国分寺跡は、塔の礎石の露出や遺物の出土によってその存在が古くから知られており、1916年に国の史跡に指定されました。1968年以降の発掘調査によって伽藍の大部分が明らかになり、現在では美濃国分寺跡歴史公園として整備され、一般公開されています。また、現国分寺には、平安時代に作られたとされる一木造りの薬師如来像が本尊として祀られており、これは国の重要文化財に指定されています。

歴史

創建

美濃国分寺の正確な創建時期は不明ですが、天平13年（741年）の国分寺建立の詔が出された頃に創建されたと考えられています。発掘調査の結果、主要な堂塔は750年代には完成していたと推定されています。また、美濃国分寺の前身となる白鳳時代の寺院跡も確認されており、在地豪族の氏寺が国分寺として発展した可能性が示唆されています。寺伝によれば、天平9年（737年）に行基がこの地を訪れ、薬師如来像を自ら彫って本尊とし、七堂伽藍を建立したと伝えられています。しかし、薬師如来像は平安時代頃の作と考えられています。

古代

天平神護2年（766年）には、伊勢国・美濃国などへの命令の中で、「国分二寺」に対する官舎修理の指示が見られます。また、神護景雲4年（770年）には、美濃国の国造が私稲を国分寺に献上したことで昇叙されています。宝亀6年（775年）には、美濃国で異常な風雨が発生し、国分寺を含む多くの寺院の建物が倒壊する被害が発生しました。仁和3年（887年）には火災で全焼し、その機能は席田郡の尼寺に移されましたが、その後の再建は文献には記録されていません。しかし、発掘調査では10世紀前半から中頃に再建されたことが確認されています。

『延喜式』によれば、美濃国の国分寺料として稲4万束が割り当てられていました。1004年には、堂塔の破損状況を調べるために使者が派遣され、当時、堂塔が存在していたことがわかります。また、1029年には損色使が派遣されています。現在の国分寺の本尊である11世紀頃の薬師如来像は、この再建された国分寺の本尊であった可能性も指摘されています。寺跡からは11世紀代の灰釉陶器も多数出土しており、当時の寺の勢いを物語っています。しかし、12世紀末頃には衰退し、国分寺としての機能は失われたと考えられています。

中世

中世に入ると、1228年の文書で後宇多院領となったことが、1314年の文書で尊治親王（後醍醐天皇）から四辻入道親王へ返還されたことがわかります。1322年には、山城醍醐寺蓮蔵院の坊領として記録されています。1365年には、美濃守護の土岐頼康に対して、国分寺に対する春日社造替料の賦課が命じられました。

近世

江戸時代に入り、1615年に阿闍梨の真教が土中から薬師如来像を発掘し、これを本尊として現在の国分寺を再建しました。

近代以降

1916年：耕地整理中に金堂基壇が発見されました。
1921年：国分寺跡が国の史跡に指定されました。
1968年から1979年：寺域範囲の確認と史跡整備のための発掘調査が行われました。
1971年と1974年：史跡範囲が追加指定されました。
1974年から1980年：史跡環境整備が行われました。
1982年：大垣市歴史民俗資料館が開館しました。
1996年以降：伽藍南側隣接地の発掘調査が行われました。
2007年：美濃国分寺跡歴史公園が全面開園しました。
2019年：史跡範囲が追加指定されました。

境内

美濃国分寺跡

美濃国分寺跡は、現在の国分寺の南側に位置しています。寺域は東西230メートル、南北250メートルで、築地塀によって区画されていました。主要な伽藍は、南門、中門、金堂、講堂、僧房が南から一直線に配置されており、中門から回廊が伸びて金堂を囲むという、大官大寺式の伽藍配置でした。以下に、各遺構の詳細を説明します。

金堂

金堂は本尊を祀る建物で、塼積基壇の上に建てられていました。基壇の大きさは東西36.5メートル、南北22.85メートルで、階段が南北両面にありました。建物自体は東西29.4メートル、南北16.2メートルの規模で、四方に庇がありました。現在は基壇が復元されています。

塔

塔は経典を納める建物で、中門と金堂の間の東側に位置していました。基壇は塼積基壇で、東西19メートル、南北19.2メートルの大きさでした。七重塔であったと推定され、高さは58メートルとされています。現在は基壇が盛土で標示され、階段と礎石が露出展示されています。

回廊内建物

用途不明の建物で、中門と金堂の間の西側に位置していました。基壇は確認されていませんが、雨落溝からその大きさが東西25.4メートル、南北16.4メートルと推定されています。平安時代の瓦が出土していることから、火災後に再建されたものと考えられています。

講堂

講堂は経典の講義や教説を行う建物で、金堂の北側に位置していました。基壇は石積基壇で、東西27メートル、南北18メートルの大きさでした。建物は東西21メートル、南北12.18メートルの規模で、四方に庇があり、屋根は檜皮葺きであったと推定されています。

僧房

僧の宿舎で、回廊の西側に遺構が検出されています。また、講堂の北側と回廊の東側にも存在していたと推定されています。西側の僧房は掘立柱建物で、二度の建替えが行われたことがわかっています。

経蔵

経典を収蔵した建物で、回廊の外側、金堂と講堂の間の東側に位置していたと推定されます。詳細は不明ですが、鐘楼と同規模であったと考えられています。

鐘楼

梵鐘を吊した建物で、回廊の外側、金堂と講堂の間の西側に位置していました。基壇は塼積基壇で、東西8.91メートル、南北12.9メートルでした。建物は南北12.2メートル、東西8.6メートルの掘立柱建物でした。

中門

金堂の南に位置し、回廊が左右に接続していました。基壇は東西18メートル、南北8.2メートルでした。建物自体の詳細は不明です。

回廊

中門と金堂を結ぶ屋根付きの廊下で、東西120メートル、南北93メートルの規模でした。屋根は檜皮葺きであったと推定されています。

南門

国分寺の正面門で、中門の南に位置していました。基壇の大きさは東西19.8メートル、南北12メートルと推定されます。建物自体の詳細は不明です。

築地塀

寺域を区画する塀で、幅6.2メートル、高さ3メートルと推定されています。南、北、西側には幅3メートルの溝がありました。

美濃国分尼寺跡

美濃国分尼寺跡は、不破郡垂井町平尾の地に位置すると推定され、現在石碑が建てられています。この地は、美濃国府跡と美濃国分寺跡の間に位置し、出土した瓦には国分寺跡と同じ文様が見られます。発掘調査により、建物基壇が検出されています。

文化財

重要文化財（国指定）

木造薬師如来坐像

平安時代に作られた一木造りの巨像で、像高は304.8センチメートルです。寺伝では行基が製作したとされていますが、実際は11世紀頃に作られたと考えられています。康尚の作とする説もありますが、一部は江戸時代後期に補修されています。

国の史跡

美濃国分寺跡

1921年に金堂と塔周辺が指定され、その後、史跡範囲が拡大されました。現在では、伽藍域54,219.95平方メートル、瓦窯跡4,237.03平方メートルが史跡指定されています。

大垣市指定文化財

土製百万塔（考古資料）

京都国立博物館に保管されています。

土製露盤伏鉢（考古資料）

大垣市歴史民俗資料館に保管されています。

現地情報

所在地

現国分寺：岐阜県大垣市青野町419
旧国分寺跡：岐阜県大垣市青野町（美濃国分寺跡歴史公園内）
国分尼寺跡：岐阜県不破郡垂井町平尾（願證寺付近）

交通アクセス

垂井駅から：現国分寺と旧国分寺跡へは徒歩約40分、国分尼寺跡へは徒歩約25分。
美濃赤坂駅から：現国分寺と旧国分寺跡へは徒歩約40分、国分尼寺跡へは徒歩約50分。
大垣駅から：名阪近鉄バス（稲葉線）で「稲葉団地」下車、徒歩約20分で現国分寺と旧国分寺跡へ。
国分尼寺跡へは、垂井町巡回バス（府中・東線）で「平尾御坊」下車、徒歩約2分。

関連施設

大垣市歴史民俗資料館：美濃国分寺跡の出土品を保管・展示しています。

周辺

昼飯大塚古墳：岐阜県最大規模の古墳で、国の史跡です。
美濃国府跡：国の史跡です。

脚注

原典

出典

参考文献

記事執筆に使用した文献

史跡説明板（大垣市教育委員会設置）
美濃国分寺跡パンフレット（大垣市教育委員会）
大垣市歴史民俗資料館パンフレット（大垣市教育委員会・大垣市文化事業団）
野村忠夫「美濃国分寺跡」『国史大辞典』吉川弘文館。
『日本歴史地名大系 21 岐阜県の地名』平凡社、1989年。ISBN 4582490212。
「美濃国分寺跡」、「平尾村」。
「美濃国分寺跡」『国指定史跡ガイド』講談社。
中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。ISBN 978-4872941708。

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