羽衣 (衣装)

羽衣（はごろも）

羽衣は、中国や日本の神仙・天女伝説をはじめ、世界各地の伝承に登場する、鳥の羽でできたとされる衣装です。この衣装は、昇天や飛翔の能力をもたらすと信じられています。各文化圏でその形態や意味合いが異なり、多様な物語や象徴を内包しています。

各地の羽衣

ゲルマン神話

ゲルマン神話では、「羽の皮[衣]」（fjáðrhamr）と呼ばれ、神々や巨人に鳥への変身能力や飛翔力をもたらすとされます。ヴァルキュリャの白鳥処女説話も、天女の羽衣伝説と関連付けられています。鍛冶師ヴェルンドが鳥の羽で作った人工翼も、「羽衣」の類似品またはそのものと見なされることがあります。

ケルト文化

中世アイルランドでは、筆頭詩人に羽衣を着用する栄誉が与えられました。

ポリネシア

ハワイでは、鳥の羽で作られた羽衣（特にマント）であるアフウラが現存しています。他にも、ポリネシア文化圏や南米にも羽衣の例が見られます。

日本の羽衣伝説

日本には、天女が「羽衣」を持つ伝承が伝わっています。また、鶴が自身の羽毛で機織りをする『鶴の恩返し』もよく知られた伝承です。

歴史的背景

『日本書紀』には、小彦名命がミソサザイの羽根を衣とした記述があり、日本の古代における鳥羽の衣装の使用を物語っています。漢字で「羽衣」「羽織」と表現されるように、羽毛を用いた布や衣装は、雨露を通さず保温性と軽さを備えた素材として珍重されていました。

正倉院の鳥毛立女屏風

奈良時代の正倉院に収められた鳥毛立女屏風には、ヤマドリの羽毛が衣服に貼られた立女が描かれており、これが「羽衣」であるとされています。これは、唐の時代に羽毛を織物にして衣服に仕立てていた影響と考えられています。

各地の風土記

『近江国風土記』逸文にみえる伊香の小江（余呉湖）の伝承では、白鳥になりすました天女らが「天の羽衣」を持っていました。一方、『丹後国風土記』にみえる天女は「衣裳」をまとっていたとのみ記されています。

竹取物語

『竹取物語』では、かぐや姫が月の都へ帰る際に天人が持参した「羽衣」が登場しますが、これは飛行手段ではなく、かぐや姫が天女であることの象徴と解釈されています。

羽衣の形状と素材

柘枝仙媛の伝説では、天女が「ひれ」をかけて飛び立ったとされています。能の『羽衣』では、天女役の能楽師が白っぽい薄地の絹の羽衣を身に着けます。これは、本来の天の羽衣のヒントであり、薄い透目の絹は古代中国でも珍重されていました。

中国の羽衣

中国の『羽衣天女』説話の類話として、姑獲鳥の逸話があります。また、中国の神仙思想における羽衣は、羽人に由来するとされています。前漢時代の青銅羽人像や墓の壁画には、羽衣を着た人物が描かれています。

歴史的変遷

仙人の意味合いが変遷していく中で、羽衣は俗世とはなれたものの衣服としての意味合いを持つようになりました。唐の玄宗は、仙女が舞っているのを見たという伝説があり、仙女たちは「霓裳羽衣の曲」に合わせて白い練り絹の衣装を着ていたとされています。

七夕伝説

白鳥処女型に分類される七夕伝説では、牛飼いが天女（織姫）の衣を奪って妻にしたという物語が伝わっています。織姫は養蚕の神とみなされ、天上の天女は蚕の繭から糸を紡ぎ、織られた絹の衣服を着ていたという通念がありました。

近世以降の日本の羽衣

桃山時代から江戸初期にかけては、陣羽織が武将の間で流行し、水鳥やヤマドリ、クジャク、ツルの羽根などが素材として用いられました。豊臣秀吉愛用の瓢紋鳥毛陣羽織や、伊達重村所用と伝わる孔雀毛織陣羽織などが現存しています。

ゲルマン神話における羽衣（再掲）

北欧神話では、神や巨人が鷹や鷲の姿になるために羽衣が用いられました。女神フレイヤは「鷹の羽衣」を持ち、ロキが借りて用を足す場面が描かれています。オーディンの鳥変身やヴェルンドの飛行も、広義の「飛行能力」として羽衣と関連付けられることがあります。

ケルト文化における羽衣（再掲）

アイルランドでは、フィリと呼ばれる特級詩人がトゥゲンという羽衣を着用しました。これは鳥の皮や羽を使った色彩豊かな衣装でした。

ハワイの羽衣（再掲）

ハワイでは、羽衣はアフウラと呼ばれ、大族長や王族のみが身に着けることができました。赤い羽根はベニハワイミツスイ、黄色い羽根はフサミツスイ属の鳥から採取されました。カメハメハ大王の羽衣やキワラオの羽衣などが著名です。

神話との関連

ハワイの神話では、英雄が敵を灰燼と帰すカパ外套（羽根スカート）を授けられる物語があります。ナヒエナエナ姫の羽根の衣装には、厄祓い的な守護力が込められていると考えられています。

マオリの羽衣（再掲）

ニュージーランドのマオリ族の羽衣はカフ・フルフルと呼ばれ、特に赤い羽根の羽衣はカフ・クラと呼ばれて珍重されました。

ブラジルの羽衣（再掲）

ブラジル沿岸のトゥピ族には、グアラ＝アブクと呼ばれる羽衣の伝承があります。これは、シャーマンが儀式で着用するもので、宗教的・神聖的な意味合いを持ちます。

羽衣は、単なる衣装ではなく、神話や信仰、社会的な地位など、様々な要素が織り込まれた文化的な象徴です。その多様な形態や意味合いは、人々の想像力と創造性を刺激し、今日まで語り継がれています。

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