耶律余睹

耶律余睹（やりつ よと）：激動の時代を駆け抜けた遼の宗室

耶律余睹（生年不詳 - 1132年）は、遼の宗室出身で、金、そして南宋へと仕えた武将です。遼の天祚帝に仕えましたが、後に金に降伏。金の将軍として活躍後、南宋への帰順を企てるも、悲劇的な最期を遂げました。彼の生涯は、遼から金、そして南宋へと移り変わる激動の時代を象徴しています。

生涯

遼での活躍

耶律余睹は、天慶年間に金吾衛大将軍・上京路都統に任じられ、金の太祖に対する防衛の任に当たりました。天慶9年（1119年）には、東京留守の耶律撒八が反乱を起こすと、領兵を率いて鎮圧し、耶律撒八を捕虜にするという功績を挙げました。

金への降伏

しかし、保大元年（1121年）、北院枢密使の蕭奉先によって、晋王耶律敖盧斡を擁立しようとしているという讒言を受け、身の危険を感じた耶律余睹は金に降伏しました。この事件は、遼の内部における権力闘争が、耶律余睹の運命を大きく左右したことを示しています。

金での活動

金に帰順後、耶律余睹は粘没喝（完顔宗翰）の武将として重用され、都元帥府・右都監に任じられました。西京（大同）の統括を任され、南宋の武将である郝仲連らの侵攻を防ぎ、数万の軍勢を壊滅させるという軍功を挙げました。

天会8年（1130年）には、西遼を建国した耶律大石への遠征を命じられます。モンゴル高原で耶律大石との間で戦火を交えますが、耶律大石が突然退却したため、深追いしませんでした。しかし、金の太宗は、耶律余睹と耶律大石が遼の王族であることから、密かに通じ合っているのではないかと疑念を抱き、妻子を人質として差し出すよう命じました。

南宋への帰順と最期

金の太宗の疑念を恐れた耶律余睹は、南宋への帰順を決意します。天会10年（1132年）には、粘没喝が南宋討伐のために中都に赴いた隙に、燕京路都軍の蕭高六や蔚州節度使の蕭特謀らと共謀し、金の統制に不満を持つ契丹族と連携して、金の太宗らを暗殺する計画を立てます。しかし、密告によって計画は露見し、蕭高六は処刑、蕭特謀は自決。耶律余睹は家族とともに西夏を経て耶律大石のもとへ逃れようとしましたが、西夏の崇宗が金と盟約を結んでいたため、逃亡は失敗に終わります。北へ迂回して東トルキスタンを目指すも、モンゴル系のタタル部に捕らえられ、息子たちと共に処刑されました。耶律余睹父子の首は金へと送られ、その生涯を閉じました。

家族

正室：蕭氏（遼の天祚帝の蕭文妃の妹）
側室：鄭巧巧、張小花（元は北宋の徽宗の夫人）

耶律余睹の生涯は、遼、金、南宋という三つの国家に翻弄されながらも、それぞれの地で自らの信念を貫こうとした人物の姿を浮き彫りにしています。彼の行動は、時代の変化に対する適応と、故国への複雑な想いが入り混じった結果と言えるでしょう。

参考文献

『遼史』 巻102 列伝第32
『契丹国志』巻19
* 『金史』

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