西遼

西遼：中央アジアに現れた契丹の末裔

西遼（せいりょう、1132年 - 1218年）は、遼を滅ぼされた契丹族の皇族、耶律大石によって中央アジアに建国された国家です。中国の史料では「西遼」、イスラーム世界の史料では「カラ・キタイ（黒い契丹）」と呼ばれ、その名は「強力な契丹」を意味するとも言われています。首都はクズオルド（現在のベラサグン付近）に置かれました。この地は、契丹語で「堅固なオルド」を意味します。

歴史

西遼は自国の記録をほとんど残しておらず、その歴史は中国やイスラーム世界の史料によって知られています。

耶律大石の西走と建国

1124年、遼が金に滅ぼされると、皇族の耶律大石は一部の契丹族を率いてモンゴル高原へ逃れ、自立の動きを見せました。しかし、金の追撃を逃れてさらに西へ移動。1132年ごろ、天山ウイグル王国を臣従させ、東カラハン朝の要請に応じ、テュルク系諸部族を破りベラサグンを占領。ここを首都クズオルドと定め、西遼を建国しました。

勢力拡大とカトワーンの戦い

建国後、西遼は急速に勢力を拡大します。1137年には西カラハン朝を臣従させ、1141年にはセルジューク朝との間でカトワーンの戦いが起こりました。西遼はこの戦いに勝利し、中央アジアにおける覇権を確立します。この戦勝は、ヨーロッパに誤って伝わり、伝説上のキリスト教国の君主「プレスター・ジョン」の伝説を生み出すきっかけになったとも言われています。さらに、ホラズム地方を劫略し、ホラズム・シャー朝にも歳幣を支払わせるなど、その支配領域はパミール以東のトルキスタンからマー・ワラー・アンナフルにまで及びました。

耶律大石の死と後継者争い

1143年、耶律大石は遼の故地奪還を目指して親征軍を率いる途中で病死しました。その後は息子の耶律夷列、さらにその妹である普速完が摂政として幼帝を後見しました。1177年には、普速完が殺害され、耶律夷列の次男である耶律直魯古が即位しました。

衰退と滅亡

耶律直魯古の治世は、政治を顧みず狩猟と快楽に溺れたため、ホラズム・シャー朝、ウイグル王国、西カラハン朝の離反を招きました。さらに、ナイマン族の移動とムスリム住民の反乱によって、帝国は急速に衰退します。

1208年、耶律直魯古はチンギス・カンに敗れたナイマン族のクチュルクを娘婿として迎えましたが、クチュルクは反乱を起こし、1211年に耶律直魯古を捕らえ帝位を簒奪しました。1213年には耶律直魯古が没し、遼の皇統は断絶しました。

1218年、西遼はモンゴル帝国の攻撃を受け滅亡しました。クチュルクは逃亡の末処刑され、西遼の旧領はチンギス・カンの次男チャガタイに与えられました。

社会

中国文化の継承

西遼では、遼の復興を目指して、中国文化が継承されました。元号が使用され、君主には廟号が贈られました。また、行政制度は南北二院制、駅伝制も採用されました。公用語としては中国語と契丹語が用いられ、ペルシア語、ウイグル語も使用されました。貨幣としては中国風の「康国通宝」が鋳造されました。

現地領主への統治委任

西遼は広大な領土を征服しましたが、その支配は、現地の領主への銀牌授与とわずかな土地の支配権を認める間接統治でした。支配者である契丹人は少数派であり、軍隊の数は70,000を超えなかったと言われています。契丹人はベラサグンの近辺で牧畜を営み、代官を派遣して徴税を行いましたが、オアシス地帯の生活に深く干渉することはありませんでした。また、イスラム国家の人頭税ではなく、中国式の戸数割の税制を採用しました。

宗教

支配層の契丹人の間では仏教が信仰されていましたが、建国者の耶律大石はマニ教徒だったという記録もあります。支配下のオアシス都市には多くのムスリムが住んでおり、彼らは交易に従事していました。西遼の支配層はイスラームに改宗しませんでしたが、イスラームの知識人は厚遇されました。また、ネストリウス派キリスト教も存在していました。クチュルクの治下ではムスリムへの迫害が行われましたが、モンゴル帝国による支配が始まると信仰の自由が回復しました。

西遼は、遊牧民の政治組織と都市文明を結合させた統治体制を築き、その後のモンゴル帝国に大きな影響を与えました。その歴史は、多様な文化が交錯する中央アジアの歴史を語る上で重要な一章となっています。

歴代君主

徳宗 耶律大石（1124年 - 1143年）
感天蕭太后 蕭塔不煙（1143年-1150年）
仁宗 耶律夷列（1150年 - 1163年）
承天太后 普速完（1163年 - 1177年）
天禧帝 耶律直魯古（1177年 - 1211年）
屈出律（1211年 - 1218年）

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