耶律大石

耶律大石：西遼（カラ・キタイ）を築いた英雄

耶律大石（やりつ たいせき、契丹音：ヤルート・タイシ）は、西遼（カラ・キタイ）の初代皇帝（グル・ハン）として知られています。彼は遼の太祖耶律阿保機の末裔であり、遼の滅亡という激動の時代に、契丹民族を率いて西方へと進出し、中央アジアに広大な империюを築き上げました。

生涯

『遼史』によれば、耶律大石は天慶5年（1115年）に科挙に合格し、翰林院に進んだとされています。しかし、遼朝では契丹人を支配者と位置付けていたため、科挙の受験は禁止されていたという説もあり、この記録は誤りである可能性も指摘されています。実際には、推挙によって北面官の大林牙院に進み、上級の林牙になったと考えられています。

泰州・祥州二州刺史、遼興軍節度使を歴任した後、保大2年（1122年）に女真族の金による攻撃を受けた天祚帝が逃亡すると、宰相の李処温とともに南京（燕京、現在の北京）で耶律涅里を擁立し、北遼を建国しました。大石は軍事統帥として国家防衛を担い、宋との和平を模索しましたが、宋は燕雲十六州攻撃を開始し、大石はこれを白溝河で打ち破りました。

その後、李処温の宋との内通が発覚し処刑されると、北遼は秦王耶律定を立て、宋軍の再侵攻を受けました。大石は南京で宋軍を再び撃破しましたが、童貫が金に燕京攻撃を依頼したため、金軍に捕らえられました。しかし、大石は秦王耶律定や徳妃蕭普賢女とともに天祚帝の元へと逃亡しました。

天祚帝の下での自身の安全に疑念を抱いた大石は、保大4年（1124年）に200人ほどの重装騎兵を率いて外モンゴルへと逃れ、モンゴル高原一帯の諸部族を招集して自立しました。1132年には葉密立（エミル、現在の新疆ウイグル自治区ドルビルジン県）で即位して天祐皇帝と名乗り、元号を延慶と定め、西遼を建国しました。

西遼の建国と拡大

西遼（カラ・キタイ）は、イスラーム側の史書では「黒い契丹」を意味する「カラ・ヒタイ」と呼ばれ、大石以降の君主たちは「グル・ハン」（全世界のハン）と呼ばれました。延慶3年（1134年）には、ウイグルでテュルク系のカルルク部族による反乱が発生すると、大石は出兵して鎮圧し、ベラサグン（現在のキルギストクマク付近）に遷都しました。

地盤を固めた大石は、天山山脈の南北のシルクロードルートを掌握し、東西に分裂していたカラハン朝を康国4年（1137年）に撃破して東部を領域に加えました。さらに、北西のカンクリやキルギスの諸部族を征服し、天山、パミール高原を超えてフェルガナ地方まで支配を広げました。康国4年（1137年）にはマー・ワラー・アンナフルを領有していた西カラハン朝を臣属させ、康国8年（1141年）にはホラズム・シャー朝に歳貢を誓約させました。

康国8年（1141年）には、カラハン朝を支援していたセルジューク朝の第8代スルタン・サンジャルの率いる大軍をサマルカンド近郊のカトワーン平原で撃破し、中央アジアに覇を唱えました。この勝利によって、中央アジアのイスラーム政権は間接的に異教徒の傘下となり、テュルクメン諸集団の統制が不可能になりました。

故地奪還を願った大石は、金に対する親征軍を出発させましたが、行軍中に崩御しました。享年58歳。彼の死後、子の耶律夷列（仁宗）が跡を継ぎましたが、幼少であったため、大石の后妃である蕭塔不煙が摂政となりました。

人物

耶律大石は、遼の滅亡という激動の時代に、契丹民族を率いて西方へと進出し、中央アジアに広大な империюを築き上げた英雄として知られています。彼は軍事的な才能だけでなく、政治的な手腕にも長けており、 conquered諸民族を巧みに統治し、西遼を繁栄に導きました。また、彼は故地奪還への強い意志を持ち続けましたが、その夢は志半ばで潰えました。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた英雄の物語として、後世に語り継がれています。

もう一度検索