脂肪族アルコール

脂肪族アルコールとは

脂肪族アルコールは、脂肪族炭化水素の水素原子をヒドロキシ基（-OH）で置換した化合物の総称です。このグループには、様々な用途で使用される重要な物質が含まれています。例えば、洗剤、界面活性剤、化粧品、食品、溶媒の原料として利用されています。

構造と分類

脂肪族アルコールは、炭素原子が鎖状に連なった構造を持ち、その鎖にヒドロキシ基が結合しています。炭素数の違いによって、低級アルコール（炭素数5以下）と高級アルコール（炭素数6以上）に分類されることがあります。また、分子中のヒドロキシ基の数によって、一価、二価、三価アルコールにも分類されます。

生産と生成

脂肪族アルコールは、自然界では主に蝋として存在し、細菌、植物、動物によって生産されます。これらは、浮力、エネルギー代謝、反響定位、断熱などの目的で利用されます。

工業的には、脂肪酸エステルを還元する方法や、石油を原料とする方法があります。初期には、蝋エステルをナトリウムで還元するブーボー・ブラン還元反応が用いられていましたが、1930年代には触媒水素化が実用化され、脂肪酸エステルからアルコールを製造することが可能になりました。さらに、1940年代から1950年代には、石油が重要な原料となり、エチレンの重合によっても脂肪族アルコールが合成されるようになりました。

天然物からの製造

伝統的な方法として、脂肪酸エステルである蝋やトリグリセリドを利用する方法があります。蝋エステルはマッコウクジラ油やホホバから、トリグリセリドは植物や動物から得られます。これらのエステルは、エステル交換反応によってメチルエステルに変換された後、水素化されてアルコールになります。植物由来の脂肪酸は鎖長が多様で、例えばセイヨウアブラナからはC20-C22の長い鎖が、ココナッツオイルからはC12-C14の短い鎖が得られます。

石油からの製造

石油を原料とした製造法としては、ツィーグラー過程があります。この方法では、エチレンをトリエチルアルミニウムを用いてオリゴマー化し、空気酸化することで偶数番号のアルコールを合成します。また、エチレンのオリゴマー化で得られたアルケンをヒドロホルミル化し、水素化することで奇数番号のアルコールを生成する方法もあります。この際、アルケンの鎖長分布は、メタセシス反応などを用いて調整することが可能です。

応用

脂肪族アルコールは、その両親媒性（親水性と疎水性の両方の性質を持つ）から、洗剤や界面活性剤の製造に広く利用されています。また、化粧品や食品においては、乳化剤、保湿剤、増粘安定剤としても用いられています。

栄養

植物蝋や蜜[[蝋]]に含まれる非常に長い鎖の脂肪族アルコールは、血漿コレステロール値を下げる効果があるという報告があります。未精製の穀物や植物由来の食品を摂取することで、低密度リポタンパク質コレステロール（LDLコレステロール）を低下させ、高密度リポタンパク質コレステロール（HDLコレステロール）を増加させる効果が期待されています。これらのアルコールは、消化器で吸収される際に脂肪酸と長鎖アルコールに分解されます。また、細胞内での代謝研究により、脂肪族アルコール、アルデヒド、脂肪酸は、可逆的に変換されることがわかっています。これらの代謝は、一部の遺伝的疾患によって阻害されることがあります。

安全性

脂肪族アルコールは一般的に安全性が高いとされています。ラットにおける経口半数致死量（LD50）は、ヘキサノールで3.1 g/kg、オクタデカノールで6-8 g/kgです。これは、体重50kgのヒトに換算すると100g以上であり、大量摂取でない限り毒性の心配は少ないと考えられます。また、皮膚への刺激性も低く、反復曝露による毒性も低いレベルです。ただし、短鎖のアルコールには眼への刺激性がある場合があります。脂肪族アルコールは体内に入ると効率的に除去され、蓄積される可能性は低いとされています。

環境への影響

鎖長C18までの脂肪族アルコールは生分解性があり、C16までであれば10日以内に完全に分解されます。C16とC18のものは10日で62-76%分解され、C18以上の鎖長になると分解度は低下します。下水処理場では、C12からC18の脂肪族アルコールの99%が除去されます。

水生生物への影響

魚類、無脊椎動物、藻類に対する脂肪族アルコールの毒性は、鎖長に依存し、短鎖のものがより毒性が高く、長鎖のものは毒性が低いとされています。しかし、OECDのプログラムでは、脂肪族アルコールが「容認できない環境リスク」を引き起こすとは定められていません。

種類

脂肪族アルコールには、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、1-ヘプタコサノール、モンタニルアルコール、1-ノナコサノール、ミリシルアルコール、1-ドトリアコンタノール、ゲジルアルコールなど、さまざまな種類があります。これらのうち、モンタニルアルコールとミリシルアルコールが特に多く存在します。

出典

Cyberlipid. “Fatty Alcohols and Aldehydes”.
CONDEA. “Dr. Z Presents All about fatty alcohols”.


この説明は、脂肪族アルコールの概要、製造法、応用、安全性、環境への影響についてまとめたものです。より詳しい情報や専門的な知識については、参考文献をご参照ください。

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