自印聖像

自印聖像（じいんせいぞう）とは

自印聖像（ギリシア語: Αχειροποίητος, ロシア語: Спас Нерукотворный, 英語: Holy MandylionもしくはImage of Edessa）は、イエス・キリストが奇跡によって布に自身の顔の像を写したものと伝えられる正教会のイコンです。「自印聖像」は日本正教会での訳語であり、「手にて描かれざるイコン」とも呼ばれます。英語表記などからマンディリオンと表記されることもありますが、日本正教会ではこの名称はあまり使われません。

このイコンは、イエスが自らの意思で顔を布に写したという伝承に基づき、多くの複製が古くから現代に至るまで作成されています。しかし、伝承に伝えられる原本の所在は不明となっています。

正教会の聖伝

以下は、教会が伝える聖伝に基づく内容であり、歴史的事実とは異なる場合があります。

エウセビオスによって伝えられる伝承によると、シリアのエデッサを治めていた王アウガリは重い病を患っていました。当時、イエスが多くの病を癒しているという噂を聞き、アウガリはイエスに会うため、画家のアナニヤを使者として送りました。

アナニヤはイエスの肖像画を描くように命じられていましたが、イエスが群衆の中にいる上、顔が光り輝いていたため描くことができませんでした。すると、イエスはアナニヤの存在に気づき、自らの許に招きました。

アウガリはアナニヤに宛てた手紙の中で、イエスの癒しの力は神の子であるからだと告白し、ユダヤ人がイエスに危害を加えようとしているため、自分の町へ来て病を癒してほしいと懇願しました。

イエスは顔を洗い、自らの顔を布に押し当てると、その顔が布に写るという奇跡が起きました。この布が「自印聖像」と呼ばれるイコンです。イエスはアナニヤに、アウガリの信仰について「見ずして信じる者は幸いである」と書かれた手紙を持たせました。そして、アウガリの町へ行くことは、自らの受難を予言した上で断りました。

イコンと手紙を見た王の喜びは大きく、病はすぐに治りました。イエスの昇天後、アウガリはタダイから洗礼を受け、キリスト教徒になった最初の王と伝えられています。

王は城壁の門の上にこの自印聖像を掲げました。その後、自印聖像は紛失と再発見を繰り返しましたが、最終的にエデッサからコンスタンティノープルに移されました。この移送を記念する祭日が8月29日（修正ユリウス暦使用教会では8月16日）です。しかし、第四回十字軍の時代に失われて以降、本物の自印聖像の行方は分からなくなっています。

自印聖像の意義

正教会では、自印聖像の伝承はイコンの概念を理解する上で重要な事例と位置付けられています。自印聖像は、神が人となったイエス・キリストの姿を、人の手によらずに現したとされ、イコンが単なる絵画ではなく、神の啓示の手段であることを示していると考えられています。

脚注

参考文献

『諸聖略伝　八月』日本ハリストス正教会（平成15年10月14日　生神女庇護祭発行）

関連項目

ウラジーミルの生神女
アンドレイ・ルブリョフ
山下りん
佐々木巌
シャンルウルファ
聖像破壊運動

外部リンク

ハリストスの自印聖像 - イコンのメロディー. 大阪ハリストス正教会.
今月の神父様のお話 - 日本正教会の司祭による講話。現代の日本人正教徒イコン画家による自印聖像も掲載。
正教会の手引 (改訂版) - 日本ハリスト正教会団, 全国宣教委員会.
* 8月16日／29日 我が主イイススハリストスの自印聖像をエデスよりコンスタンチノポリに移しし祭日 - 祭日の祈祷文

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