至心院

至心院（ししんいん）は、生没年不詳ながら、延享5年2月26日（1748年3月24日）に没したとされています。彼女は、徳川幕府9代将軍・徳川家重の側室であり、10代将軍となる徳川家治の生母にあたります。通称は「お幸の方（おこうのかた）」、俗名は幸子、あるいは「こう」とも呼ばれていました。死後、従一位を追贈されています。

生涯

至心院は、梅渓通条を父として生まれました。享保16年（1731年）、増子女王が徳川家重のもとへ輿入れする際、その御側付きとして江戸へ下りました。享保18年（1733年）に正室の増子が亡くなると、家重は至心院を深く寵愛するようになりました。元文2年（1737年）には、家重との間に嫡男・竹千代（後の徳川家治）を授かり、至心院は「お部屋様」として敬われるようになりました。

しかし、その後、家重の寵愛は安祥院（於遊喜の方）へと移り、至心院との関係は変化していきます。延享2年（1745年）、家重が将軍宣下を受けると、至心院も大奥に入り、従三位に叙せられました。同じ年に安祥院が万次郎（清水重好）を出産しています。

家重は次第に酒色に溺れるようになり、至心院が諫言しても聞き入れず、むしろ疎むようになりました。ある時、家重が別の側室と睦み合っている最中に、至心院が部屋に入ってしまったことで、家重は激怒し、至心院を牢に閉じ込めてしまいます。この事態を知った家重の父・徳川吉宗は、「嫡男の生母を牢に入れるのは良くない」と家重を諌め、至心院は牢から解放されました。しかし、この事件を機に、夫婦の仲が修復することはなかったと伝えられています。

延享5年（1748年）2月26日、至心院は亡くなり、寛永寺山内にある福聚院に葬られました。戒名は至心院観真円如大姉。宝暦13年（1763年）4月16日には、従一位が追贈されました。

関連作品

至心院を題材とした、または彼女をモデルとした作品がいくつか存在します。

テレビドラマ
時代劇スペシャル・大奥 悪霊の館（1981年、フジテレビ・東映）：岩井友見が至心院を演じました。このドラマでは、史実とは異なり、至心院が嫉妬深い女性として描かれています。また、家治の生母も、至心院ではなく、お俊の方（由美かおる）に変更されています。
大河ドラマ・八代将軍吉宗（1995年、NHK）：松原千明が至心院を演じました。
木曜劇場・大奥（2024年、フジテレビ）：紺野まひるが至心院を演じました。
漫画
大奥 - よしながふみ：男女逆転設定の作品ですが、至心院をモデルにした人物が登場します。

参考文献

雲村俊慥『大奥の美女は踊る』（PHP研究所、2006年）
高柳金芳『大奥の秘事』（雄山閣、2003年）

関連項目

* 梅渓家

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