英宗 (明)

明の皇帝、英宗

明の第6代、そして第8代皇帝である英宗は、その波乱に満ちた生涯で知られています。諱は祁鎮(きちん)。明の皇帝は通常、一世一元の制により元号で呼ばれることが多いですが、英宗は二度皇帝の座に就いたため、廟号である「英宗」と称されることが一般的です。しかし、元号を用いて正統帝、天順帝と呼ぶ場合もあります。彼は中国統一王朝の皇帝の中で唯一、野戦で捕虜となった皇帝としても知られています。

生涯

皇帝即位

宣宗宣徳帝の長男として生まれた英宗は、1435年に父帝の崩御により9歳で皇帝に即位しました。幼少期の治世は、太皇太后張氏や三楊と称される有能な官僚たちによって支えられ、安定していました。しかし、彼らが死去または引退すると、宦官の王振が台頭し、専横を極めるようになりました。王振は自ら去勢して宦官となった人物で、政治理念に欠け、権勢と蓄財にのみ執心しました。彼の専横により国政は弛緩し、国内では農民反乱が頻発、北方ではオイラトが侵入を繰り返すなど、混乱を極めました。

土木の変

当時、オイラトはエセンの出現によって勢力を拡大していました。明朝は政治腐敗と軍紀の頽廃が深刻化しており、オイラトは明朝への朝貢貿易再開を要求しましたが、拒否されたため、明領への侵略を繰り返しました。1449年、王振はエセン討伐を英宗に進言し、反対を押し切って50万の大軍を率いて親征を開始しました。しかし、行軍中に食糧が不足し、大同に到着した時点で撤退勧告が出されましたが、英宗と王振はこれを無視して北進しました。結果として、明軍は壊滅し、英宗自身もオイラトの捕虜となってしまうという失態を演じました（土木の変）。

皇帝捕虜の知らせを受けた朝廷は、于謙らの尽力により北京に留まり、皇弟の朱祁鈺が景泰帝として即位しました。于謙は石亨らと協力して兵力を集中させ、オイラトの侵攻から北京を防衛しました。1450年に講和が成立し、英宗は明朝に送還されましたが、太上皇として軟禁されることとなりました。

奪門の変

上皇となった英宗は政治的影響力を失い、軟禁状態に置かれました。しかし、1457年に景泰帝が病床に就くと、徐有貞、石亨、曹吉祥らによる政変が発生し、英宗は再び皇帝の座に復帰しました。この際、于謙らが殺害され、景泰帝も死去しました。この復辟は「天順」と称されました。

復辟後

復辟後、クーデターに貢献した石亨と曹吉祥は傍若無人に振る舞い、「曹石」と呼ばれました。しかし、後に徐有貞と対立し、徐有貞派の讒言により、石亨は失脚させられ、殺害されました。曹吉祥の甥である曹欽がクーデターを企てましたが失敗、曹欽は自殺し、曹吉祥も処刑されました。

英宗は1464年に38歳で死去し、跡を子の朱見深（成化帝）が継ぎました。

人物

英宗は、阿諛追従する奸臣を重用し、多くの功臣を冤罪で処刑しました。彼の治世は汚職が蔓延し、農民蜂起が多発しました。しかし、天順年間には、行政に勤勉で優れた政治家である李賢を重用しました。また、永楽帝によって50年以上監禁されていた建文帝の遺児を釈放したことや、崩御時の殉葬を禁止したことなどは評価されています。一方で、于謙を処刑したことは、後世の批判を浴びることになりました（後に名誉回復）。

宗室

正室：銭皇后（孝荘睿皇后）

側室：周貴妃（孝粛皇后）

長男：成化帝 朱見深 - 第9代皇帝
次女：重慶公主
六男：崇簡王 朱見沢

側室：宸妃万氏

次男：徳荘王 朱見潾
三男：朱見湜
四女：淳安公主
六女：広徳公主 朱延祥
七男：吉簡王 朱見浚
八男：忻穆王 朱見治

側室：恵妃王氏

四男：許悼王 朱見淳
三女：嘉善公主

側室：淑妃高氏

五男：秀懐王 朱見澍
八女：隆慶公主

側室：徳妃魏氏

九男：徽荘王 朱見沛
七女：宜興公主
十一女 - 夭折

側室：順妃樊氏

十女 - 夭折

側室：安妃楊氏

五女：崇徳公主

側室：麗妃劉氏

九女：嘉祥公主

その他多数

賢妃王氏、敬妃劉氏、昭妃武氏、和妃宮氏、恭妃劉氏、賢妃李氏、荘妃趙氏、成妃張氏、充妃余氏、麗妃陳氏、貞妃王氏

伝記

川越泰博『モンゴルに拉致された中国皇帝 明 英宗の数奇なる運命』（研文出版〈研文選書88〉）
趙毅、羅冬陽，《明英宗傳》，北京市，人民出版社，2019年7月。

登場作品

映画

神機箭（シンギジョン）（2008年、韓国、演：キム・ミョングク）
龍門剣破（2020年、中国、演：潘暁輝）

テレビドラマ

王の後宮（2013年、中国、演：周浩東）
女医明妃伝〜雪の日の誓い〜（2016年、中国、演：ウォレス・フォ）
大明皇妃 -Empress of the Ming-（2019年、中国、演：チャン・イーシン／EXOレイ）

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