英巌寺

英巌寺：宇都宮藩戸田家の菩提寺の歴史と現在

英巌寺（えいがんじ）は、かつて下野国河内郡宇都宮城内にあった臨済宗の寺院です。宇都宮藩主であった戸田氏の菩提寺として重要な役割を果たしましたが、戊辰戦争の戦火により焼失し、廃寺となりました。現在は、その跡地の一部が英巌寺児童公園として整備され、わずかにその面影を残しています。

英巌寺の歴史

創建と移転（1601年 - 1710年）

英巌寺は、戸田尊次が三河国田原城主となった慶長6年（1601年）に、田原城内に建立されたのが始まりです。尊次は、父・戸田忠次の菩提を弔うため、京都の妙心寺から天門宗理大和尚を招き、開山としました。寺名は、忠次の戒名「泰平寺殿英巌玄雄大居士」に由来し、山号は田原城の守護神である蔵王権現にちなんで蔵王山と名付けられました。

その後、戸田氏は転封を繰り返し、その都度、英巌寺も共に移動しました。肥後国富岡、武蔵国岩槻、下総国佐倉、そして越後国高田へと移り、各地に英巌寺が建てられました。高田時代には、後に著名な禅僧となる白隠慧鶴が英巌寺に入門し、修行に励んだという逸話も残っています。

宇都宮移転後（1710年 - 1868年）

宝永7年（1710年）、戸田忠真が宇都宮へ転封されると、英巌寺も宇都宮に移されました。宇都宮の英巌寺は広大な境内を有し、現在の花房本町一帯に位置していました。境内には、山門をはじめ、位牌堂や僧堂などの堂宇が建ち並び、戸田家の菩提を弔う寺として手厚く保護されました。

寛延2年（1749年）には、戸田忠盈が島原へ転封となり、英巌寺も一時的に島原へ移りましたが、安永3年（1774年）に再び宇都宮へ戻り、幕末まで寺領が与えられ、守り継がれました。

江戸時代後期の儒学者・蒲生君平は、英巌寺の住職と親交があり、仏教排撃をめぐって激論を交わしたというエピソードも残っています。

戊辰戦争と廃寺（1868年）

慶応4年（1868年）の戊辰戦争において、旧幕府軍が宇都宮城を攻めた際、英巌寺に火を放ちました。これにより、堂宇は倉庫を残して全て焼失し、英巌寺は廃寺となりました。本尊の釈迦如来像は、近隣の報恩寺に安置されました。

史跡としての保存

廃寺後、英巌寺の跡地は荒廃しましたが、明治時代に入り、戸田家の墓所が整備され、史跡として保存されるようになりました。1875年には鉄製の鳥居が建てられ、1908年には東京にあった戸田家の墓が改葬されました。

昭和時代には、地域住民によって「英巌寺祭り」が催され、小学校の遠足の目的地にもなるなど、人々に親しまれていましたが、第二次世界大戦後、祭りは途絶え、荒廃が進みました。

その後、郷土史家や市民有志の尽力により、史跡保存運動が展開され、1971年には宇都宮市の史跡に指定されました。現在、跡地の一部は英巌寺児童公園として整備され、地域住民の憩いの場となっています。

英巌寺児童公園

英巌寺児童公園には、戸田忠恕の墓、戸田忠友の墓、戸田氏11人の合葬墓碑などが保存されています。また、「英巌寺のイヌツゲ」と呼ばれる樹齢約300年の巨木や、サルスベリの古木も植えられています。

公園の入り口には、「宇都宮城主戸田家菩提所 英巌寺史跡」と刻まれた石碑が建ち、英巌寺の歴史を今に伝えています。

まとめ

英巌寺は、宇都宮藩戸田家の菩提寺として、宇都宮の歴史と文化に深く関わってきました。戊辰戦争で焼失し、廃寺となりましたが、その跡地は史跡として保存され、人々に親しまれています。英巌寺児童公園を訪れれば、戸田家の歴史と、宇都宮の歴史に触れることができるでしょう。

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