前蜀

前蜀（907年 - 925年）

前蜀は、中国の五代十国時代に、成都（現在の四川省成都市）を中心に四川省を支配した国です。蜀の地は古来より「天府」と呼ばれ、豊かな資源と天然の要害に恵まれていました。

歴史

建国

前蜀の建国者である王建（おうけん）は、元は許州舞陽県（現在の河南省漯河市舞陽県）の出身でした。黄巣の乱の鎮圧で功績を挙げ、その後、唐の実力者である宦官の田令孜（でんれいし）の養子となり、僖宗（きそう）が蜀へ落ち延びる際にこれを救ったことで壁州（現在の四川省巴中市通江県）刺史となりました。

888年には永平節度使となり、891年には成都に拠っていた剣南西川節度使の陳敬瑄（ちんけいせん）と養父である田令孜を殺害し、成都を制圧しました。さらに剣南西川藩鎮を滅ぼし、四川全域をほぼ完全に支配下に置きました。901年には鳳翔の李茂貞（岐王）より漢中を奪いました。

これらの功績により、903年に唐から蜀王の地位を与えられ、907年に後梁によって唐が滅ぼされると、王建は皇帝を名乗って前蜀を建国しました。

繁栄と衰退

蜀は天然の要害であり、周辺からの侵攻の危険が少ない地域でした。また、塩や鉄などの資源を豊富に有し、古来より「天府」と呼ばれていました。この平和を求めて多くの文化人や僧などが中原から蜀へ流れてきており、王建は豊かな経済力を背景に文化の保護を行い、木版印刷による儒教・仏教の経典の出版や絹織物の生産などの事業を興しました。

しかし、一方で、侵攻の危険性が薄いことから、軍隊の目は内部への監視に向いており、「尋事団」と呼ばれる秘密警察を作り、不満分子を圧殺しました。

918年に王建が死去すると、王建の実子と仮子の間で相続争いが起こり、最終的に王建の末子の王衍（おうえん）が後を継ぎました。王衍は蜀の経済力に依存して奢侈にふけり、政治を宦官に任せきりにし、民衆からは搾取を行いました。これにより民心は急速に離反し、925年に後唐軍が侵攻してくると抵抗する者がおらず、簡単に滅ぼされました。王衍は長安に護送される途中で殺害されました。

前蜀滅亡後は、後唐の武将である孟知祥（もうちしょう）がこの地の統治を後唐より任ぜられましたが、後に独立して後蜀を建国しました。

文化

前蜀が保護した文化人として著名な者は、晩唐の代表的詩人の一人と評価される韋荘（いそう）、後の北宋の画壇に影響を与えた宮廷画家の黄筌（こうせん）、書と画に優れた禅月大師・貫休（ぜんげつだいし・かんきゅう）などがいます。

また、成都の郊外には永陵（えいりょう）と呼ばれる王建の墓が残っており、その中には王建の棺の周りには24人の奏者と12人の力士の石彫りがあります。この墓は1942年に発見され、現在は一般公開されています。

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