荒川区の町名

この項目では、東京都荒川区に存在する、または過去に存在した町名について解説します。明治時代初期からの区内の町名の変遷を詳細に説明し、荒川区の歴史的背景を明らかにします。

荒川区の前史と行政区画の移り変わり

荒川区は、1932年（昭和7年）10月1日に、旧北豊島郡の南千住町、三河島町、尾久町、日暮里町の区域を統合して誕生しました。当時は東京市の一部でした。

区名の由来

区名の「荒川」は、同名の河川に由来します。しかし、現在の荒川区内には「荒川」という名の川は流れていません。現在、区と足立区の境を流れる川は「隅田川」ですが、かつてはこの川が荒川の本流でした。鐘ヶ淵の屈曲部を境に、下流を「隅田川」、上流を「荒川」と呼んでいました。その後、水害防止のために人工河川である荒川放水路が開削され、1965年（昭和40年）に荒川放水路が正式な荒川の本流となり、元の荒川本流は「隅田川」と呼ばれるようになりました。この経緯から、現在の荒川区内には「荒川」という名の川は存在しません。

明治維新から東京市成立まで

現在の荒川区の区域は、かつて武蔵国豊島郡に属する農村地域でした。大部分は峡田領に属し、三ノ輪村、千束村、三河島村、町屋村、金杉村、上尾久村、下尾久村、船方村、新堀村（後に日暮里村と改称）、谷中本村などの村々が存在しました。峡田の地名は、区立小学校の校名として残っています。また、奥州街道沿いの地域は早くから町地化し、小塚原町、中村町、通新町、真正寺門前、橋場町地方などの町がありました。小塚原町と中村町は、千住大橋を挟んで対岸の千住宿の加宿で、峡田領に属しながらも淵江領の一部として扱われました。その後、小塚原町と中村町は「千住宿南組」と改称されました。

これらの町村のうち、現在の荒川区域に含まれるのは、三河島村、町屋村、上尾久村、下尾久村、谷中本村、小塚原町、中村町、通新町、真正寺門前の全域、新堀村の大部分、三ノ輪村、千束村、金杉村、船方村、橋場町地方の一部です。さらに、三ノ輪町（下谷三ノ輪町）の飛地も含まれています。

明治維新後、これらの町村は武蔵知県事の支配を経て、東京府に属しました。千住宿南組は小菅県に属しましたが、その後東京府に編入されました。1868年（慶応4年）、「江戸」が「東京」に改称され、東京府が設置されました。現・荒川区の区域の大部分は東京府に編入されました。

1869年（明治2年）、東京府では町地と郷村部の境界線を定める朱引が行われました。皇居を中心とした市街地を朱引内、その外側を郷村とし、朱引内は50区画、郷村部は5つの組に分けられました。後の荒川区となる区域は、地方3・4番組に属しました。1871年（明治4年）には朱引が見直され、朱引外の第67〜69区に区分されました。

同年、廃藩置県が実施され、従来の東京府、品川県、小菅県が廃止され、新たな東京府が設置されました。これにより、品川県と小菅県の町村が東京府に編入され、千住宿南組も東京府に編入されました。府内は6大区・97小区に分けられました。その後、区割りが見直され、大部分が第10大区第1小区に属するようになりました。

1878年（明治11年）、郡区町村編制法の施行に伴い、大区小区制は廃止され、東京府下に15区6郡が置かれました。後の荒川区となる区域は、大部分が北豊島郡に属し、町地の一部は下谷区に所属しました。

1889年（明治22年）、市制・町村制が施行され、東京市が成立しました。府下の6郡は、既存の町村が整理統合されて85町村となり、そのうち北豊島郡には南千住町、三河島村、尾久村、日暮里村の1町3村がありました。

区成立以後

1932年（昭和7年）、東京市は周辺の5郡の82町村を編入し、大東京市が成立しました。この時、北豊島郡の南千住町、三河島町、尾久町、日暮里町の4町をもって荒川区が新設されました。1943年（昭和18年）には東京府と東京市が廃止され、東京都が設置されました。荒川区を含む35区は東京都直轄の区となりました。1947年（昭和22年）に35区は22区に再編され、その後、板橋区から練馬区が分離して23区となり、現在に至ります。

新旧の地名

町村制施行前後

1889年（明治22年）の市制・町村制施行時、現在の荒川区の区域は、北豊島郡南千住町、三河島村、尾久村、日暮里村に属していました。

南千住町: 千住南組、三ノ輪村、千束村、三河島村、地方橋場町の各一部と、下谷三ノ輪町の飛地、下谷通新町の区域で成立。千住南、三ノ輪、千束、三河島、地方橋場、下谷三ノ輪、下谷通新の7大字を編成。
三河島村: 町屋村の全域、千住南組、（旧）三河島村、三ノ輪村、金杉村の各一部で成立。町屋、千住南、三河島、三ノ輪、金杉の5大字を編成。
尾久村: 下尾久村、上尾久村の全域と、船方村の一部で成立。下尾久、上尾久、船方の3大字を編成。
日暮里村: 谷中本村の全域、（旧）日暮里村、金杉村の一部で成立。谷中本、日暮里、金杉の3大字を編成。日暮里村は、かつて新堀村と称しましたが、1877年（明治10年）に表記を日暮里村に変更しました。

合併前の旧村のうち、複数区町村に分割編入されたものの編入先は以下の通りです。

三ノ輪村 - 南千住町、三河島村、下谷区三ノ輪町に編入
千束村 - 南千住町、浅草区、下谷区に編入
（旧）三河島村 - （新）三河島村、南千住町に編入
金杉村 - 三河島村、日暮里村、下谷区に編入
船方村 - 大部分が王子村（現・北区）に編入、一部が尾久村に編入
日暮里村 - 大部分が（新）日暮里村となり、一部が本郷区と下谷区に編入

明治初期の町名変更

明治22年に南千住町に編入された町区域の大部分は、明治初期に改名・合併を経ています。

千住南組: 小塚原町と中村町が1869年（明治2年）に合併・改称。1878年（明治11年）に千住南組に改称。1889年（明治22年）に大部分が南千住町に、一部が三河島村に編入。
地方橋場町: 江戸期からの町名。1889年（明治22年）に一部が下谷区に編入。
下谷三ノ輪町: 江戸期からの町名で、1870年（明治3年）に下谷原宿町に改称。1881年（明治14年）に下谷三ノ輪町に復称。1889年（明治22年）に飛地が南千住町に編入。
下谷通新町: 江戸期からの町名。1879年（明治12年）に下谷真正寺町を編入。
下谷真正寺町: 江戸期の真正寺門前を1869年（明治2年）に改称。1879年（明治12年）に下谷通新町に編入。

境界変更

1955年（昭和30年）に以下の境界変更が行われました。

尾久町七丁目に北区堀船町二丁目の一部を編入。
日暮里九丁目の一部を北区田端町に編入。

大字名・町名対照表

町村制施行時（1889年）の南千住町、三河島村、尾久村、日暮里村の大字名と、荒川区成立時（1932年）の町名との対応関係については、別途資料を参照ください。

荒川区成立前後に成立・廃止された町名

南千住町一〜十丁目: 1928・1929年（昭和3・4年）に、旧南千住町の大字・字を廃止して成立。区成立時に町名となる。
旭町一〜三丁目: 1927年（昭和2年）に旧日暮里町の大字名として成立。1932年（昭和7年）の荒川区成立時に廃止。
日暮里渡辺町: 1932年（昭和7年）の荒川区成立時に成立。1934年（昭和9年）に廃止。

新旧町名対照表

1963年（昭和38年）から住居表示が実施され、1968年（昭和43年）3月に全域で完了しました。荒川区は住居表示法施行直前の1961年（昭和36年）に荒川一〜八丁目、1962年（昭和37年）に町屋一〜八丁目が成立しています。

荒川一〜八丁目: 1961年に町名地番整理で成立。1968年に住居表示を実施。
町屋一〜八丁目: 1962年に町名地番整理で成立。1963年に住居表示を実施。

住居表示実施以前（1960年現在）の町名と現行町名との対照表は、別途資料を参照ください。

現行行政地名

荒川区では、住居表示が完了しており、住居表示実施後の町名と旧町名の一覧については、別途資料を参照ください。

参考文献

『角川日本地名大辞典東京都』、角川書店、1978年
人文社編集・刊行『昭和三十年代東京散歩』（古地図ライブラリー別冊）、2004年
人文社編集・刊行『昭和東京散歩』（古地図ライブラリー別冊）、2004年
重藤魯『東京町名沿革史』、吉川弘文館、1967年
* 東京にふる里をつくる会編・松平康夫執筆『荒川区の歴史』（東京ふる里文庫）、名著出版、1979年

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