萬福寺 (大田区)

慈眼山 萬福寺

萬福寺は、東京都大田区馬込にある曹洞宗の寺院です。慈眼山と号し、本尊は阿弥陀三尊を安置しています。寺伝によれば、建久3年（1192年）に源頼朝の命を受けた梶原景時によって、現在の大井 (品川区)付近に創建されたのが始まりとされています。その後、梶原景嗣の代に現在の地に移されたと伝えられています。

歴史

開基と伝えられる梶原景時の墓所が境内に存在します。室町時代末期に寺域は荒廃しましたが、天正3年（1575年）に明堂文龍大和尚によって曹洞宗寺院として再興されました。ただし、資料の散逸が多く、梶原景時開基説については異論もあります。

江戸時代の地誌『武蔵演路』や『四神地名録』では、萬福寺と梶原景時との関係は後世の誤伝ではないかと指摘されています。しかし、江戸時代にはすでに梶原景時に関する伝承が広まっていたことが窺えます。境内には「梶原三河守景時同助五郎景末」と刻まれた墓石があり、『小田原衆所領役帳』に名前が確認できる北条家の家臣であることから、彼らが梶原景時の子孫である可能性も指摘されています。

伽藍

萬福寺には、以下の伽藍があります。

本堂：本尊の阿弥陀三尊を安置する。
鐘楼門：鐘楼を兼ねた山門。
摩尼輪堂：本堂前にあり、巨大なマニ車を納める。
閻魔堂：『東都歳事記』にも閻魔詣の社寺として記載されている。
洗心閣
山門
無量門

その他、境内には以下の建造物があります。

日待供養塔：寛永15年（1638年）に馬込村の人々によって造立された。
室生犀星句碑：室生犀星が近くに居を構えていたことにちなみ、「笹鳴や 馬込は垣も まばらにて」「葱の皮 はがれしままに かぎろひぬ」の句が刻まれている。
磨墨像：源頼朝から梶原景季に与えられたという乗馬「磨墨」のブロンズ像。
梶原殿：多目的ホール。

萬福寺と日蓮聖人

日蓮聖人は弘安5年（1282年）に病のため常陸国へ湯治に向かう途中、池上本門寺に立ち寄りその地で亡くなりますが、その際、萬福寺に立ち寄ったと伝えられています。日蓮は萬福寺が馬込へ移される前にあった阿弥陀堂に宿泊を願い出て、住持は快く受け入れたとされます。その謝礼として、日蓮は身につけていた鬼子母神尊像を萬福寺に寄進しました。この鬼子母神尊像は一時所在不明となりましたが、昭和62年（1987年）に再び萬福寺に安置されています。

日蓮の「馬込村へはわが宗旨は拡めず」という言葉が伝えられており、実際に第二次世界大戦前まで馬込には日蓮宗の寺院は存在しませんでした。また、池上本門寺には「第一番池上家当主席、第二番萬福寺住職席」とする席順の伝説があります。実際に金子日威貫主の本葬では、萬福寺住職席が各宗派の管長よりも上座に設けられました。

萬福寺と室生犀星

室生犀星は昭和7年（1932年）に萬福寺に隣接する土地に家を建て、晩年を過ごしました。親友の芥川龍之介の死後、田端を離れることや、萩原朔太郎に勧められたことなどがきっかけで馬込に移り住んだとされています。湿気の多い山王から、高台にある萬福寺のそばに住居を求めた理由を日記に書き残しています。

犀星は作庭にも才能を発揮し、自邸の庭造りにも力を注ぎました。室生邸は犀星の死後取り壊されましたが、その庭は近隣住民に強い印象を与えました。イタリア文学者の河島英昭も、自著の中で馬込を再訪した際の思い出を綴っています。

著名人の墓

梶原景時（武将）
木原義久（徳川家大工頭）
金澤一郎（スペイン語学者、東京外国語大学教授）
松旭斎天勝（初代、奇術師）

交通

東急バス荏原営業所荏原町線 万福寺前停留所下車、徒歩約3分
* 都営地下鉄浅草線西馬込駅下車、徒歩約15分

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