牟羽可汗

牟羽可汗（ぼううかがん）の生涯

牟羽可汗（? - 779年）は、回鶻（ウイグル）可汗国の第3代可汗で、葛勒可汗（ガル・カガン）の子として生まれました。氏族は薬羅葛（ヤグラカル）氏、諱は移地健（イジゲン）。最初は牟羽可汗（ブグ・カガン）または登里可汗（テングリ・カガン）と名乗っていましたが、唐に入朝した際に英義建功毘伽可汗（えいぎけんこうビルゲ・カガン）の称号を授与されました。

759年、父の葛勒可汗が死去し、長兄が既に亡くなっていたため、次男の移地健が後を継いで牟羽可汗となりました。彼は僕固懐恩（ボクコ・カイオン）の娘を妻（カトゥン：皇后）に迎えました。しかし、先代の皇后であった寧国公主は子供がいなかったため、唐に帰国することになりました。

760年、牟羽可汗は使節を唐に派遣し、国交を深めようとしました。しかし、その後の唐では安史の乱が勃発し、混乱が続いていました。762年、唐の粛宗が崩御し、代宗が即位すると、代宗は史朝義（しちょうぎ）討伐のため、回紇に援軍を要請しました。

しかし、史朝義は回紇に唐への侵攻を唆したため、牟羽可汗は軍を率いて南下を開始しました。唐の使者である劉清潭（りゅうせいたん）は、侵攻を思いとどまるよう説得しましたが、聞き入れられませんでした。牟羽可汗は、唐の北部にある単于都護府（ぜんうとごふ）を占拠し、劉清潭を侮辱しました。この事態に、唐朝廷は大きな衝撃を受けました。

状況を打開するため、牟羽可汗の妻である僕固氏が、父に会いたいと訴え、その父である僕固懐恩が説得に当たった結果、牟羽可汗は進軍を中止しました。その後、回紇軍は唐軍とともに史朝義討伐に協力することになり、牟羽可汗は唐の要人と会談しました。しかし、その席で、回紇の将軍が唐の役人を殴打し、死者まで出るという事件が起こりました。この一件により、両国間の緊張が高まりました。

その後も回紇軍は史朝義軍との戦闘で活躍し、最終的に史朝義の首を討ち取り、乱の平定に大きく貢献しました。この功績により、代宗は牟羽可汗に「登里羅汨没蜜施頡咄登蜜施合倶録毘伽可汗」という長い称号を授けました。さらに、可敦や他の回紇の要人にも称号と領地を与え、両国間の関係は安定したかに見えました。

しかし、764年には、僕固懐恩が唐に対して反乱を起こし、吐蕃と結んで唐を攻めました。この反乱は郭子儀によって鎮圧されましたが、その後も回紇軍による掠奪行為が横行し、唐の社会問題となりました。

768年、牟羽可汗の皇后が亡くなると、唐から弔問使が派遣され、767年には新たな皇后を迎えるなど、関係修復に努めました。しかし、778年には回紇軍が太原を襲撃するなど、両国間の緊張は再び高まりました。

779年、代宗が崩御し、徳宗が即位すると、徳宗は回紇との関係修復を試みましたが、牟羽可汗は唐の喪に乗じて侵攻しようとしました。これに反発した宰相の頓莫賀達干（トン・バガ・タルカン）によって、牟羽可汗は殺害され、頓莫賀達干が新たに可汗となりました。

マニ教の受容

牟羽可汗の時代には、マニ教が回紇に受容されました。762年、牟羽可汗が唐に侵攻した際にマニ教を受け入れたと伝えられています。しかし、マニ教受容に反対する勢力も存在し、牟羽可汗の死後、一時的に弾圧されました。その後、再び国教として栄えました。

牟羽可汗の遺跡

牟羽可汗は、先代の葛勒可汗が建てた都よりも大規模なオルドゥ・バリクという都城を建設しました。オルドゥ・バリクは、中国史料では回紇単于城、卜古罕（ブグハン）城、窩魯朶（オルダ）城などとして記されています。オルドゥ・バリクは「可汗の宮殿の都」を意味します。

牟羽可汗とブクハン伝説

コンスタンティン・ムラジャ・ドーソンが紹介した「ウイグルの始祖説話」には、ウイグル人に推戴されたブク・テギンという人物が登場しますが、このブク・テギンのモデルが牟羽可汗であるという説があります。この伝説は、牟羽可汗がウイグル可汗国の最盛期を築いたことの象徴とされています。

結論

牟羽可汗は、回鶻可汗国にとって重要な人物であり、その生涯は多くの出来事に彩られています。唐との関係、マニ教の受容、そして大規模な都城の建設など、彼の業績は回紇可汗国の歴史に深く刻まれています。

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