董允

董允（とう いん）

董允（とう いん）は、中国後漢末期から三国時代の蜀漢の政治家。字は休昭（きゅうしょう）。父は董和（とうわ）。孫は董宏（とうこう）（晋の巴西太守）。『三国志』蜀書に独立した伝があります。

略歴

章武元年（221年）、劉備が皇帝に即位し、劉禅（りゅうぜん）を皇太子に立てると、董允はその側近（太子舎人、次いで太子洗馬）として抜擢されました。建興元年（223年）、劉禅の即位後は黄門侍郎（こうもんじろう）に任じられました。

建興5年（227年）、諸葛亮（しょかつりょう）は北伐に先立って上奏した出師表の中で、費禕（ひい）・郭攸之（かくゆうし）と共に董允の名を挙げ、「政治の規範・利害を斟酌し、進み出て忠言を尽くすのは彼らの役目です。宮中の事柄は全て彼らにご相談ください」などと述べました。次いで諸葛亮は費禕を参軍にしたいと要請したため、代わりに董允が侍中・虎賁中郎将（こへいちゅうろうしょう）に昇進し、近衛兵の指揮を任されました。

費禕は北伐の随員となり、また郭攸之も大人しい性格であったため、諫言するのは専ら董允の役割となりました。劉禅は常々、美人を選び後宮を満たしたいと望んでいましたが、董允は「古代にあっては、天子の后妃の数は十二人に過ぎません。今、宮女は既に揃っているので、増やすのは適当ではありません」と主張し、あくまで承知しませんでした。このため、劉禅はさらに董允を憚るようになったといいます。

建興13年（235年）、蔣琬（しょうえん）は益州刺史（えきしゅうしし）に任命されると費禕・董允にその地位を譲ろうとしましたが、董允はこれを固辞しました。

劉禅は成長するに従い、黄皓（こうこう）を寵愛するようになりましたが、董允から厳しく諌められました。このため、董允存命中において黄皓は黄門丞の地位に留まり、悪事を働くことはできませんでした。

延熙6年（243年）、輔国将軍（ほこくしょうぐん）を加官されました。翌年、侍中・守尚書令（じちゅう・しゅしょうしょれい）に任命され、大将軍であった費禕の次官となりました。

延熙9年（246年）に死去しました。董允の没後、劉禅を諫め黄皓の専横を防ぐ人物は現れず、劉禅は亡くなった董允を日に日に疎ましく思うようになりました。後に黄皓は政治を壟断して国を滅ぼすに至ったため、蜀の人々で董允を追慕しない者はいなかったといいます。

瀘州市江陽区に墓所があります（県級文物保護単位）。墓碑は既に失われ盛土のみが残っています。

人物

蜀の人々は諸葛亮・費禕・蔣琬・董允を、「四英」または「四相」と呼びました。

かつて父の董和は、董允と費禕のどちらが優れているか判断しかねていました。ある時、許靖（きょせい）の子の葬儀に董允と費禕が一緒に参列することになりました。董和が粗末な馬車を用意したところ、董允は嫌な顔をしましたが費禕は平然としていました。董和は「二人の優劣が今日になってようやく分かった」と言ったといいます。

費禕は尚書令になると、朝夕に政務を治め、その間に賓客に応接し、飲食しながら遊び戯れ、娯楽を尽くしながらも仕事を怠りませんでした。その後、董允は費禕の後任の尚書令となり、費禕を真似ようとしましたが、十日の間に政務が停滞してしまいました。董允は「人間の能力というものは、これほどまでに差があるのか」と嘆いたといいます。

ある時、費禕や胡済（こせい）との宴会に行こうとしたところ、年少で官位の低い董恢（とうかい）が董允の下を訪れました。董恢が恐縮して帰ろうとすると、董允は「せっかく参られた君を捨て置いて、単なる友人との宴会に赴くなど考えられようか」と言い、外出を中止しました。

性質は君子を以って為し周公之徳があると評されたといいます。

参考文献

* 陳寿『三国志』「董允伝」

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